春の花には幕を降してもらう。夏を迎える準備だ。 建屋の東通路だ。春の花ばなの掉尾を飾ってくれたユキノシタだったが、花の姿は眼に見えて張りを喪い、草姿にも勢いがなくなった。あきらかに峠を越えたのである。 最期まで観届けるのが心遣いかとも思うが、老残の身で野草の残身を愛でてどうする、という気も湧く。ひと思いに引導を渡してやるのが、礼儀というものか。 いくら花姿が可憐であっても、先方は人間なんぞよりも強い。むしれば容易に引っこ抜かれるようでいて、次世代へとつなぐ命の緒はちゃんと確保されてあるにちがいない。来年はまたきっと姿を現す。 他のいく種類かの花ばなとともに、春花の先頭を切って勢いを誇ったハルジ…