前編はこちら → レリーフの記憶 はるか昔――名前すら忘れ去られた時代。人々はまだ太陽と月を信仰し、風を“声あるもの”として聴いていた。 その村には、ひとりの少年がいた。名はイシャ。身体は弱く、狩りにも出られず、農具も持てなかった。けれどイシャには、見えるものがあった。 風の中に、獣ではない形。火の揺らぎの中に、言葉を語る顔。星の瞬きが、天に浮かぶ舟を描いていること。 村人たちは、最初それを怖れた。「イシャは奇妙なものを描く」と、壁を塗りつぶした。けれど、イシャはやめなかった。 手のひらが疼くように、石に“何か”を刻みたくなるのだ。 ある日、夢に現れた者がイシャに言った。 「それを彫れ。語るの…