*〈父〉と〈母〉の分裂 日本哲学を代表する哲学者の一人である九鬼周造は1988年(明治21年)に男爵九鬼隆一の四男として東京に生まれました。九鬼家の祖先は戦国時代に伊勢志摩を本拠として活躍した伊勢水軍です。周造の父、九鬼隆一は1852年(嘉永5年)の生まれで、伊丹の綾部藩に仕える武士でしたが、維新後は福沢諭吉門下で英学を修め、その後文部省に入り、駐米特命全権公使、帝国博物館総長等を歴任します。その一方で隆一は美術行政も手掛け、近代日本美術の開拓者として知られる岡倉天心と共に日本の古美術の発掘に尽力し、自身でも日本の美術を論じた著作を公刊しています。 周造の母、波津は京都の祇園の出とされています…