岡山県の静かな山あい。風の音しか聞こえないような場所に、一つの駅が残されています。名前は「吉ヶ原駅(きちがはらえき)」。かつて鉱山を支えた片上鉄道の終着駅であり、今は「柵原ふれあい鉱山公園」の一角として保存されています。 赤いとんがり屋根の木造駅舎。初めて見たとき、まるで昭和の映画に迷い込んだような錯覚に陥りました。静かで、古くて、でも不思議な温かさがあって──それは、ただ保存されているからではなく、「誰かが、この駅を大切にしてきた」と感じられる空気でした。 この駅には、駅長がいました。名前は「コトラ」。人間ではなく、猫です。 コトラは、かつてこの駅で“駅長”として人々を迎え、見送り、癒してい…