文政九年のことである。 江戸は上野の山下で、世にも珍奇な見世物が興行される運びとなった。 女力士と盲力士の対決である。 互いに十一人の選手を出して、最終的な勝ち星を争う。 (Wikipediaより、土俵) 土俵の神聖もへったくれもない話だが、実のところあの領域が女人禁制となったのは、もっぱら維新の影響に負うところが頗る大で、徳川三百年の治世に於いてはその点いたって緩やかだった。 明和と天明の二回にわたりピークがあって、江戸はおろか大坂でも盛んな取り組みが見られたという。 ただ、その相手が男衆――それも盲人揃いというのは初めてのこと。 おまけに女側の力士というのも、酌婦あがりが結構な数を占めてい…