んべろんべろ 澱ノ道帖・秋冬の食材と食卓: ― 澱みに熟す ― 秋の台所には、果物のかすかな香りと、 土のにおいが漂っている。柿が陽を吸って橙に染まる。 梨は時をおいて香を増す。里芋の湯気に懐かしさがひそむ。 大根を切れば音が澄む。食卓にたまる季節の澱を、 ひと匙ずつ口に運ぶ。人の幸せなど、 きっとそれくらいで足りるのだ。 一、梨の澱 梨は、切るときに音がいい。しゃくり、と鳴る。あれは秋を象徴する季節の音である。冷やしてもよし、常温でもよし。甘さは清らかで、どこか寂しい。短い季節を惜しむように、 静かに喉を潤す果実。世間が梨を“果物”と呼ぶのは勝手だが、澱ノ道にとっては“水果の哲学”である。 …