幼稚園から小学校二年生まで長屋の社宅に暮らしていた。 木造の壁は薄く、隣のくしゃみが聞こえた。笑い声も、叱られる声も、家族じゃなくても家族のように聞こえた。 道は舗装されていなかった。雨が降ればぬかるみ、晴れれば乾いた土ぼこりが舞った。その道を、裸足で駆け抜けた。 家に風呂はなかったけれど、不便とは思わなかった。社宅には専用の銭湯があり、子どもは無料で入れた。 学校が終わると、友達と連れだって銭湯へ向かう。肩にタオルをひっかけ、話しながら歩くその時間が、すでに楽しかった。 湯船に入れば、すぐに戦闘が始まる。 「いろはにこんぺいとう!」 「えいやっ!」 手と手を合わせて、湯の中で転がし合う。誰か…