葵(あふひ) 巻名の由来 賀茂の葵祭の当日、源典侍と光源氏が交わされた御歌――「はかなしや人のかざせるあふひゆゑ神のゆるしの今日を待ちける」「かざしける心ぞあだに思ほゆる八十氏になべてあふひを」――にちなみ、この巻名がつけられております。 本文 世の中変はりて後、よろづ物憂く思され、御身のやむごとなさも添ふにや、軽々しき御忍び歩きもつつましうて、こゝもかしこも、おぼつかなさの嘆きを重ね給ふ報いにや、なほ我につれなき人の御心を、尽きせずのみおぼし嘆く。今はましてひまなう、たゞ人のやうにて添ひおはしますを、今后は心やましう思すにや、うちにのみ侍ひ給へば、立ち並ぶ人なう心やすげなり。をりふしに従ひて…