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2017-05-06

片岡剛士氏日銀審議委員候補選出記念リンク集

00:05 | 片岡剛士氏日銀審議委員候補選出記念リンク集を含むブックマーク

すでに報道されている通り、リフレ派のエコノミストとして有名な片岡剛士氏が、日銀審議委員の候補として選ばれました。衆参両院とも自民党が単独過半数を占めているため、この人事は国会で承認され、9月の金融政策決定会合から参加することになります。

 政府は18日、日本銀行の審議委員に三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済政策部上席主任研究員の片岡剛士氏、三菱東京UFJ銀行取締役常勤監査等委員の鈴木人司氏を充てる人事案を国会に提示した。

 任期は5年間。参院が記者団に資料を配布した。

  ルームバーグが入手した政府の国会提出資料によると、片岡氏は44歳。経済政策の調査に約20年間携わっており、理論やデータに基づく「分析手法は高い評価を得ている」という。「アベノミクスのゆくえ−現在・過去・未来の視点から考える」(光文社新書)などの著書がある。慶応大学大学院商学研究科修士課程修了。

 昨年4月、自民党の有志議員の勉強会「アベノミクスを成功させる会」(会長・山本幸三地方創生担当相)に講師として出席し、消費増税の凍結を提唱した。代替の社会保障財源として相続税や資産課税の強化を挙げていた。

 昨年11月4日付の片岡氏のリポートでは、「2%のインフレ目標に向けたモメンタムが維持されているとは全く思えない」とした上で、「早期の追加緩和という具体的なアクションを行うことが定石であり、かつ必要である」との見解を示していた。


日銀審議委員候補に「リフレ派」片岡氏−三菱UFJ銀の鈴木氏も - Bloomberg 日銀審議委員候補に「リフレ派」片岡氏−三菱UFJ銀の鈴木氏も - Bloomberg 日銀審議委員候補に「リフレ派」片岡氏−三菱UFJ銀の鈴木氏も - Bloomberg

私も片岡氏の著書や記事はほとんど読んでいますが、データに基づいた緻密な分析能力と、異論となることを恐れずに主張を貫く勇気をそなえる片岡氏は、まさに"cool head but warm heart"*1を持つ人だと思います。

日銀審議委員としては、執行部を支えるだけではなく、日銀が今後取るべき政策を指し示す存在となってほしいと思います。かつて速水総裁のデフレ政策を批判し、ゼロ金利政策や量的緩和政策を主張して、最終的には日銀に採用させた中原伸之氏のような活躍を期待したいと思います。


さて、このように私は片岡氏の日銀審議委員就任に大きな期待をかけているのですが、その反面、これまで各方面で活躍していた片岡氏の著書や記事、レポートを今後5年間は読めなくなるのが残念でたまりません。

そこで、このページでは片岡氏関連の記事や資料をまとめることにしました。

まず、今回の日銀審議委員候補選出にあたって、記事やブログで多くの方が取り上げています。


田中秀臣

リフレ派による片岡剛士氏の紹介|hidetomitanakaのブログ リフレ派による片岡剛士氏の紹介|hidetomitanakaのブログ リフレ派による片岡剛士氏の紹介|hidetomitanakaのブログ


高橋洋一

日銀政策委員、リフレ派増員で民主党色は一掃された | 高橋洋一の俗論を撃つ! | ダイヤモンド・オンライン 日銀政策委員、リフレ派増員で民主党色は一掃された | 高橋洋一の俗論を撃つ! | ダイヤモンド・オンライン 日銀政策委員、リフレ派増員で民主党色は一掃された | 高橋洋一の俗論を撃つ! | ダイヤモンド・オンライン


若田部昌澄氏(英語による片岡氏の詳細な紹介です)

Why PM Shinzo Abe Should Listen To Reflationist Bank Of Japan Nominee Why PM Shinzo Abe Should Listen To Reflationist Bank Of Japan Nominee Why PM Shinzo Abe Should Listen To Reflationist Bank Of Japan Nominee


質問者2氏

日銀審議委員候補に片岡剛士さん٩( 'ω' )و|質問者2 のブログ 日銀審議委員候補に片岡剛士さん٩( ’ω’ )و|質問者2 のブログ 日銀審議委員候補に片岡剛士さん٩( ’ω’ )و|質問者2 のブログ

【記事紹介】安倍総理は日銀審議委員候補の片岡剛士さんの意見を傾聴すべき(若田部昌澄さん)|質問者2 のブログ 【記事紹介】安倍総理は日銀審議委員候補の片岡剛士さんの意見を傾聴すべき(若田部昌澄さん)|質問者2 のブログ 【記事紹介】安倍総理は日銀審議委員候補の片岡剛士さんの意見を傾聴すべき(若田部昌澄さん)|質問者2 のブログ


また、勤務先の三菱UFJリサーチ&コンサルティングからは、定期的にマクロ経済の動向や経済・金融政策の評価・分析を行うレポートを出しています。さらに著作やメディア活動の一覧も載っています。


またSYNODOSでも多くの記事を発表しています。

片岡剛士 | SYNODOS -シノドス- 片岡剛士 | SYNODOS -シノドス- 片岡剛士 | SYNODOS -シノドス-


Newsweekにも少し記事がありました。

複眼でみる日本経済 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト 複眼でみる日本経済 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト 複眼でみる日本経済 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト


まだ他にもあるとは思いますが、とりあえず現時点で見つけられたのはこのくらいでした。

もし他にありましたら、このブログのコメント欄やTwitterで教えてくだされば幸いです。


最後に、今後の片岡氏のさらなる活躍を願っています。日銀官僚の「ご説明」には負けないで頑張ってください(笑)

*1:この言葉は近代経済学の祖と言われるアルフレッド・マーシャルの言葉で、経済学を修める者すべてに求められる資質とされています。

riorio 2017/05/14 13:39 しばらく前に岸田文雄外務大臣の経済政策が不透明という話題がありましたが、岸田氏の妹は二人とも財務官僚と結婚されているようです。
縁戚と政策は別だと思いますが、ポスト安倍が本当に心配になりますね。

BaatarismBaatarism 2017/05/15 22:29 rioさん

財務省はそこまで手を伸ばしているのですね。
安倍政権が終わっても、安倍氏と菅氏に目を光らせてもらわないといけないようですね。

2017-01-08

「自由主義的AI社会」と「統制主義的AI社会」

00:29 | 「自由主義的AI社会」と「統制主義的AI社会」を含むブックマーク

あけましておめでとうございます。

このブログも3ヶ月ほど間が空いてしまい、その間にはトランプ大統領当選という衝撃的な事もありました。その後の動きを見ていると、最も大きな影響を受けそうなのは中国となりそうです。これについては、大統領就任後の動きを見て、改めて記事にしようかと考えています。


さて、昨年大きな話題を呼んだものの一つに人工知能(AI)の発達がありました。機械学習、特にディープラーニング(深層学習)の技術が急速に発展し、囲碁の世界ではGoogleが開発した「AlphaGo」が世界のトップ棋士を破るという特筆すべき出来事がありました。さらに昨年年末から今年の初めにかけてはネット囲碁の世界でいくつもの「謎の棋士」が登場し、AIではないかと噂されています。その中で最強と言われ、世界的な棋士を次々と破っている「Master」が、実は「AlphaGo」の新バージョンであった事も明らかになりました。

Google DeepMindの共同創立者であるデミス・ハサビス氏が1月5日(日本時間)、Twitterを更新。年末年始に世界のトップ棋士を続々撃破していた謎の囲碁アカウント「Master」は、囲碁ソフト「AlphaGo」の新バージョンだと明らかにした。


謎の囲碁棋士「Master」の正体は「AlphaGo」 Googleが発表 - ねとらぼ 謎の囲碁棋士「Master」の正体は「AlphaGo」 Googleが発表 - ねとらぼ 謎の囲碁棋士「Master」の正体は「AlphaGo」 Googleが発表 - ねとらぼ


このように急速な発展を続けるAIですが、近い将来に人間と同等かそれ以上の知能を持つ「汎用人工知能(Artificial General Intelligence) 」が誕生し、飛躍的な生産性の向上をもたらすと同時に、人間の仕事をAIが奪う技術的失業が起こるのではないかと言われています。そのため、AIの影響は経済学の分野でも大きく論じられています。

日本でも井上智洋氏が「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」という本でこの問題を論じており、汎用人工知能による技術的失業については、政府がベーシックインカム(BI)で所得を保障すべきだと結論づけています。同様の議論は欧米でも行われているようです。AIによって飛躍的な生産性向上が実現するならば、それが生み出す付加価値に課税する方法を見つければBIの財源を確保できるので、実現性の高い話になるでしょう。


このように欧米や日本などの西側先進国では、AIによる生産性向上の成果を人々が享受し、それに伴う失業というマイナス面を克服することが社会的課題となっています。これらの国では、AIの発展を人々の生活水準や自由の向上に役立てようとしていると言えるでしょう。


しかし、中国はAIを別のことに利用しようとしているようです。

 杭州市政府が試験的に導入しているのは、共産党が2020年までに全国的に普及させたいとしている「社会信用」システムだ。同システムは、中国政府が共産党の正統性に対する脅威を回避するため使っている社会管理手法をデジタル化させたものだ。

 現在は30以上の地方政府が個人の信用度を格付けするべく、市民の社会行動および金融行動のデジタル記録を収集し始めている。例えば、不正乗車や信号無視、家族計画規則違反などさまざまな違反行為をすると罰点が科されるという。

 一部のシステム設計者への取材や政府文書の確認で分かったところでは、中国政府は早晩、個人のインターネット活動を含めた一段と大きな統合データプールを活用する見通しだ。システムは一連のデータを基に、各種アルゴリズムを使って市民の格付けを決定するという。その後、格付けはあらゆる意志決定に利用される。例えば、誰に融資を承認するか、政府機関で誰に迅速に対応すべきか、誰に豪華ホテルへの利用を認めるかなどだ。

 この試みは、党の権威をむしばむ恐れのある経済的な不透明感が強まっているなかで、権力支配を強化しようとする習近平国家主席の取り組みを強化するものだ。習主席は10月、「あらゆる形態のリスクを予見し、予防する能力を高める」べく、「社会統治」の革新を呼びかけた。

 立案文書のなかで繰り返されている文言によれば、全国的な社会信用システムの狙いは、「信用に値する者はどこでも歩き回れるようにする一方、信用を落とした者はただの1歩も踏み出させない」ようにすることだ。


中国が強化する社会統制:市民を信用格付け - WSJ 中国が強化する社会統制:市民を信用格付け - WSJ 中国が強化する社会統制:市民を信用格付け - WSJ

 外から見る限り、習近平氏に率いられた共産党はここ数十年で最も強くなっているように思われる。天安門事件以降、さえない役人は頭脳明晰なテクノクラートに、ときには起業家にまで取って代わられた。

 市民は事業を営む自由、外国に出掛ける自由、勝手気ままな人生を送る自由など、10年前には想像もできなかった自由を謳歌している。共産党は西側で使われているPRのテクニックを駆使し、大量消費のおかげで誰もが非常に楽しい時間を過ごしていることを忘れないようにと中国国民に呼びかけている。

 それにもかかわらず、共産党はまだ強い不安を覚えている。ここ数年は、反体制派やその弁護士たちを厳しく弾圧する必要があると考えており、最近でも、共産党の権威にたてついた香港の活動家を脅したり、不満を抱く少数民族を威圧したりしている。

 一方で、急速な経済成長のおかげで生まれた新興中間層は非常に規模が大きく、裕福になる機会を大いに享受しているものの、周囲の人や物事のすべてに不信感を持っている。国民の財産権を踏みにじる役人、腐敗にまみれた国営の医療制度、粗悪品を日常的に売り歩く企業、インチキやごまかしが普通になっている教育制度、犯罪歴や所得・資産の状況がどうしても調べられない人などがその主なところだ。

 ここまで互いに信頼し合えない社会は安定しない――そんなもっともな懸念を中国共産党は抱いている。

 そこで共産党は現在、驚くような改善策の実験を進めている。この改善策は「社会信用体系」と呼ばれている。同党によればその狙いは、デジタル形式で蓄積された情報を互いに結びつけ、借金を踏み倒した企業だろうと、税金や罰金の支払いを逃れている個人だろうと、誰もがより正直に行動するよう促すことにあるという。

 それだけ聞けば、結構な話だ。しかし、中国政府はこれを「社会管理」、すなわち個人の行動を支配する道具にするとも話している。何しろ、国民が自分の親に何回会いに行くかを見張ろうとする政治体制だ。監視の対象がどこまで広がるのか、予断を許さない。

 各市民に付与される格付けは、当人の身分証明書番号にリンクされる。そのため、低い格付けを取ってしまうと銀行に融資を断られたり、鉄道の切符を買う許可が下りないといった制裁を受けたりする恐れがある、それも、政治的な理由でそうなってしまうかもしれない、と不安を訴える人が少なくない。

 市民が心配するのももっともだ。実際、中国政府は今年、この社会信用システムを用いて、「社会秩序を攪乱するために集まる」という非常に曖昧な罪までも記録することを決めている。

 西側諸国でも、人々が生活において何かをする度に残していくわずかなデータを、グーグルやフェイスブックといった企業が電気掃除機のように吸い込んでいる。こうしたデータにアクセスできる人は、データを残した人々のことを当人よりも詳しく知ることになる。しかし西側であれば、ルールが設けられるだろう、国家が関与するなら特にそうだろうと少なからず確信することができる。

 中国では、そうはいかない。上記のような監視はデジタル・ディストピア(デジタルの暗黒郷)に行き着く恐れがある。

 中国政府の当局者は、「信用できる人はこの世のどこでも大手を振って歩くことができ、片や信用できない人は足を1歩踏み出すことも難しくなる」ようなシステムを2020年までに作りたいと話している。


ビッグデータと政府:中国のデジタル独裁 | JBpress(日本ビジネスプレス) ビッグデータと政府:中国のデジタル独裁 | JBpress(日本ビジネスプレス) ビッグデータと政府:中国のデジタル独裁 | JBpress(日本ビジネスプレス)

このように中国は、個人の社会行動や金融行動のデータを収集し、そのビッグデータを「社会信用システム」を使って格付けし、「信用に値する者はどこでも歩き回れるようにする一方、信用を落とした者はただの1歩も踏み出させない」社会を、2020年までに作ろうとしているようです。*1

中国でもAIの研究は盛んに行われていますが、深層学習のような技術は「社会信用システム」のビッグデータ処理に応用され、その結果が個人の格付けとなってその自由や生活を制限し、特に反政府的な人物については社会的活動が全くできなくなるようになるのでしょう。

中国ではAIの発展を人々の生活や自由の制限、管理に役立てようとしているようです。

多くのメディアが、中国のこのような動きをジョージ・オーウェルのディストピア小説「1984年」に例えています。この小説では世界が3つの全体主義国家「オセアニア」、「ユーラシア」、「イースタシア」によって支配されていますが、中国は現実世界で「イースタシア」を目指していると言えるでしょう。

すでに実際に複数の信用調査会社に対して国民の信用情報を収集・評価そして管理する権限を与えられ、その中にはゲーム形式のアプリで個人の信用度を割り出し、その点数をユーザーに競い合わせている会社もあるそうです。「1984年」のような重苦しい雰囲気ではなく、ゲームの点数を競い合うように個人信用度が競われているというのは、ブラックユーモアのような話です。

中国で、国家規模の社会評価制度が生まれようとしている。政府が独自の基準で、国民の信用度を定めるのだ。

新制度では、個人の金銭取引記録やオンライン・ショッピングに関するデータ、ソーシャル・メディア上での言動、そして、雇用履歴などが組み合わされ、全国民一人一人の総合的「社会信用度」が割り出される。信用度は、西洋でも金融制度の一環として利用されている。しかし、その内容は、各個人の金銭取引記録に基づいて弁済能力が定められ、ローンを借りるための条件付けが行われるだけである。ところが、中国で採用された信用度制は、個人の懐事情をちょっと確かめるという範疇を大きく超える。

中国政府が公表した「社会信用力制度構築のための概要計画」によると、制度の目的は政界、経済界、そして民間という3者間の信頼を精査し、高めることだけではない。政府業務や商取引上における信頼性と、社会的誠実性(誠信)を強化し、司法の中立性を構築することもその目標の内に掲げられている。

中国政府は信用力制度の試験的な実施にあたり、複数の信用調査会社に対して、国民の信用情報を収集・評価そして管理する権限を与えた。こうした仲介会社の中にはセサミクレジットと呼ばれるゲーム形式のアプリを作成し、制度試行の先導となったアント・ファイナンシャル(アリババ系列)も入る。

セサミクレジットでは、各個人がどの程度「良い」人なのかが割り出される。ユーザーは、取得した点数を知り合い等と共有するよう推奨されており、オンライン活動の如何によっては、月一回の更新で点数アップを狙うこともできる。ただし、利用するオンラインプラットフォーム及びサービスは、アリババ関連であることが必要だ。

上のビデオは12月下旬にアップロードされるや否や、ネット上で急速に拡散した。というのも、そのビデオが上記ゲームを「オーウェル風ディストピア」として評したためだ。


中国は「オーウェル風ディストピア」?「社会信用制度」とは · Global Voices 日本語 中国は「オーウェル風ディストピア」?「社会信用制度」とは · Global Voices 日本語 中国は「オーウェル風ディストピア」?「社会信用制度」とは · Global Voices 日本語


このように西側先進国と中国では、AIを利用する目的が大きく異なります。

西側先進国ではAIの発展を人々の生活水準や自由の向上に役立てようとしています。このような国々は「自由主義的AI社会」と言えるでしょう。

一方、中国ではAIの発展を人々の生活や自由の制限、管理に役立てようとしています。今後、統制主義的な国家がAIを導入するときも、中国式の方法を取り入れるでしょう。このような国々は「統制主義的AI社会」と言えるでしょう。

自由主義と統制主義(ファシズムや共産主義)との対立は20世紀の大きな対立軸でした。20世紀の対立は冷戦終結によって自由主義陣営の勝利で終わりましたが、その中を生き延びた中国が21世紀の統制主義陣営の中心となって、AIという新たな技術を取り入れて、再び自由主義陣営に挑もうとしているのだと思います。


日本や欧米ではAI社会の問題点として、技術的失業など「自由主義的AI社会」の問題点が論じられていますが、それと同じくらい「統制主義的AI社会」の問題点についても注目していく必要があると思います。そのような社会に向かって突き進んでいる中国の状況から、これからも目が離せません。

*1:なお、人間を格付けしようという中国政府の方針は、外国人も例外ではありません。すでに外国人を「ABCランクづけ」する制度が、今年4月から始まるようです。前代未聞! 中国が始める外国人「ABCランクづけ」制度(近藤 大介) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

ZOZOZOZO 2017/01/12 22:48 SF小説みたいなことをリアルでやろうとするとか予想外ですね・・・

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2016-10-15

日銀の新たな金融政策の枠組みについて

00:37 | 日銀の新たな金融政策の枠組みについてを含むブックマーク

日本銀行は9月20日・21日の金融政策決定会合において、これまでの金融緩和の「総括的な検証」を行い、それに基づいて新たな金融政策「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。

この政策については、これまで日銀の金融緩和政策を支持し、執行部や審議委員にも多くの人が加わったリフレ派の間でも、賛否が分かれています。僕もこの政策についてはなかなか考えがまとまらず、これまでブログで取り上げられませんでした。ただ、いつまでもこの問題を取り上げないわけにもいかないので、これまでに考えたことを書いてみます。


今回の新たな政策は、以下のような内容です。

これらを踏まえ、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、上記2つの政策枠組みを強化する形で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定した。その主な内容は、第1に、長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」、第2に、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」である。


(1)長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)

1. 金融市場調節方針(賛成7反対2)


金融市場調節方針は、長短金利の操作についての方針を示すこととする。次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針は、以下のとおりとする。今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる。

短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用する。

長期金利:10 年物国債金利が概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約 80 兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する。買入対象については、引き続き幅広い銘柄とし、平均残存期間の定めは廃止する。


2. 長短金利操作のための新型オペレーションの導入(賛成8反対1)

長短金利操作を円滑に行うため、以下の新しいオペレーション手段を導入する

(i)日本銀行が指定する利回りによる国債買入れ(指値オペ)

(ii)固定金利の資金供給オペレーションを行うことができる期間を 10 年に延長(現在は1年)


(2)資産買入れ方針(賛成7反対2)


長期国債以外の資産の買入れについては、以下のとおりとする。

? ETFおよびJ−REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。

? CP等、社債等について、それぞれ約 2.2 兆円、約 3.2 兆円の残高を維持する。


(3)オーバーシュート型コミットメント


日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。

マネタリーベースの残高は、上記イールドカーブ・コントロールのもとで短期的には変動しうるが、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。この方針により、あと1年強で、マネタリーベースの対名目GDP比率は 100%(約 500 兆円)を超える見込みである(現在、日本は約 80%、米国・ユーロエリアは約 20%)。

今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。


金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 :日本銀行 Bank of Japan 金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 :日本銀行 Bank of Japan 金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 :日本銀行 Bank of Japan


この中で重要な点は以下の通りです。

  1. 長短金利操作(イールドカーブ・コントロール):短期金利はマイナス0.1%、10 年物国債金利が概ねゼロ%程度
  2. 長期国債の買い入れ額は現状の買入れペース(保有残高の増加額年間約 80 兆円)を目処とする
  3. オーバーシュート型コミットメント :2%のインフレ目標を多少超えても、安定的に持続するために必要な時点まで、金融緩和を継続


この中で、オーバーシュート型コミットメントは望ましい政策でしょう。2%のインフレ目標が安定するまで金融緩和を維持するという方針は、「インフレ率が2%を少しでも超えたら金融引き締めに転換するのでないかという懸念を払拭し、インフレ目標へのコミットメントを強めることになります。

ただし、イールドカーブ・コントロールの10 年物国債金利が概ねゼロ%程度という目標と、長期国債の買い入れ増加額は年間約 80 兆円を目処とするという方針は、現状では矛盾しています。*1


実際に、この方針が発表されてから、長期国債の買い入れは減額していますし、黒田総裁は国債買い入れを将来的に減額する可能性にも言及しています。これらのことから考えると、日銀は長期国債の買い入れ増加額を減らしても、10 年物国債金利が概ねゼロ%程度という目標を優先する方針なのでしょう。*2


日銀は30日、10月の国債買い入れを減額すると発表した。国債買い入れオペ(公開市場操作)の10月分の買い入れ方針で、10月初回の買い入れについて、残存期間「10年超」の買い入れ額を減額。30日午前のオペで26日の4300億円から4100億円に減らしていた「5年超10年以下」については4100億円を据え置くとした。月間では約2000億円程度の減額となる。日銀は21日の金融政策決定会合で長期金利を「ゼロ%程度」に誘導することを決めていたが、その後は長期金利がじりじりと低下していた。減額で金利低下を抑制する狙い。金利を調節する政策の運用が本格化する。


日銀、金利調節を本格化 国債買い入れ減額  :日本経済新聞 日銀、金利調節を本格化 国債買い入れ減額  :日本経済新聞 日銀、金利調節を本格化 国債買い入れ減額  :日本経済新聞

YCC*3については、多額の国債買い入れによって長期金利操作ができているとし、「新たな枠組みへのシフトによって、日銀のバランスシートの拡大がこれまでと大きく異なるものとなってしまうことはない」と説明。当面は国債保有額を年間80兆円増加させるペースで買い入れる考えに変化はない、との見解を示した。

一方でYCCが達成されている限り、将来的に買い入れ額を「かなり」減らすかもしれない、と指摘。長期金利(10年債利回り)がターゲットを下回れば買い入れペースを縮小する可能性があるとし、「資産買い入れ額が減少しても増加しても、イールドカーブ・コントロールを適切に維持していれば問題はない」と語った。


現時点で追加利下げ必要ない、国債買い入れ将来的に減額も=日銀総裁 | ロイター 現時点で追加利下げ必要ない、国債買い入れ将来的に減額も=日銀総裁 | ロイター 現時点で追加利下げ必要ない、国債買い入れ将来的に減額も=日銀総裁 | ロイター

このように、10 年物国債金利が概ねゼロ%程度という目標と、長期国債の買い入れ増加額は年間約 80 兆円を目処とするという方針が矛盾していることが、今回の枠組みに対する賛否が割れている理由なのでしょう。

このように賛否が割れているということは、今回の決定で日銀の金融政策への信頼が揺らぎ、日銀の説明が素直に信じられなくなっていることを示していると思います。日銀が信頼を取り戻すためにはこの矛盾をなくすことが必要でしょう。


そのための手段としては、以下のようなことが考えられます。

  1. 目標とするイールドカーブを引き下げ、10 年物国債金利の目標をマイナスとする。
  2. 国債以外の資産(例えば外債)を購入し、イールドカーブに影響しない金融緩和手段を実施する。
  3. 政府が国債を新たに発行することで、10 年物国債金利の目標をゼロにしたまま国債買い入れ額の増加を実現する。


このうちイールドカーブを引き下げは日銀だけで実施できる方法ですが、それをするならなぜ今回やらなかったのかという疑問が出てきます。10 年物国債金利の目標をゼロにしたのは、恐らく国債を保有する銀行の経営に配慮したのだと思います。日銀としても、自らの政策で銀行の経営が悪化したり破綻したりする事態は避けたいでしょう。そう考えると、日銀がイールドカーブを引き下げを実施する可能性は低いでしょう。


次に国債以外の資産購入ですが、資産が大量に流通しているものを購入することが望ましいと考えれば、最大の候補は米国債となるでしょう。日銀の外国債の購入は、為替介入を目的としない限り、法的にも問題はないようです。だから為替相場と関係なく購入するのであれば可能でしょう。

日銀が外債を購入することによって、まず市場へ円資金を供給することができる。加えて、外債を買う過程で円を下落させる効果がある。前者で現行の日銀の金融緩和政策にプラスに働き、後者で財務省が行う「為替介入」と同様の効果もある。

この為替介入であるが、財務省の権限ということになっているため、外債購入は「法律的に難しい」といわれることがある。しかし、あまり報道されていないことであるが、外債購入自体は日銀法上では「可能」ではある。日銀法40条1項では〈日銀は自ら、または国の代理人として、外貨債権の売買ができる〉となっている。

さらに、同条2項では〈為替相場の安定を目的とするものについては国の代理人として行う〉とある。つまり、日銀法上、日銀は自ら外貨債権の売買を行うことは可能だが、為替介入目的の場合は国(財務省)の代理人として行う必要がある。


日銀への大きな不満?為替介入を嫌がる財務省、その判断は間違いです(ドクターZ) | 現代ビジネス | 講談社 日銀への大きな不満?為替介入を嫌がる財務省、その判断は間違いです(ドクターZ) | 現代ビジネス | 講談社 日銀への大きな不満?為替介入を嫌がる財務省、その判断は間違いです(ドクターZ) | 現代ビジネス | 講談社


ただ、為替介入を目的としなくても、米国債購入を行うと結果として円安になるので、この点で米国が反対する可能性があります。

しかし一方で、最近各国で米国債が売られているという話もあります。

米国債市場の需要の源泉として、最も頼りになる存在の一つだった外国の中央銀行がこのところ、投資家にとって新たな不安要因になりつつある。

米連邦準備制度が保管している外国中銀の米国債保有残高によると、中国や日本などの中銀は3四半期連続で保有を縮小している。これは過去最長の圧縮。縮小ペースはここ3カ月で加速しており、米国債利回りも同時に上向きつつある。


(中略)


連邦準備制度の保管データは海外中銀の保有縮小が一度限りの現象ではないことを裏付けている。米財務省の統計でも、中国は7月に米国債保有を1兆2200億ドルと、約3年ぶりの低水準に減らしたことが示された。日本やサウジアラビアなども今年、米国債保有を減らしている。

米国債の大口保有者が売却する理由はさまざまだが、いずれも各国の経済的困難に関係する。中国では景気減速による資本流出を受け、中銀が人民元相場を防衛するために米国債を売却。海外勢の米国債保有で2位の日本は、長引くマイナス金利で邦銀のドル需要が高まる中、米国債を現金や米財務省短期証券(TB)と交換している。

サウジアラビアのような産油国は、原油安による財政赤字の穴埋めのため米国債を売却している。サウジの保有は6カ月連続で減少し、965億ドルと14年11月以来の低水準。ナショナルオーストラリア銀行(NAB)の市場調査責任者ピーター・ジョリー氏は、原油安で産油国の「貿易収支は著しく悪化している」と述べ、これらの国の「米国債購入ニーズが大きく減っている」という意味だと指摘した。

中銀の米国債需要は10年物米国債利回りを0.4ポイント押し下げていると試算するモデルもあるだけに、その需要減少は7月に過去最低の1.318%を付けた米国の借り入れコストがようやく上向きつつある理由の1つを示している。


米国債市場の最大の買い手が異例のペースで売り、相場の転換点示唆か - Bloomberg 米国債市場の最大の買い手が異例のペースで売り、相場の転換点示唆か - Bloomberg 米国債市場の最大の買い手が異例のペースで売り、相場の転換点示唆か - Bloomberg


この記事にあるように、最近は中国やサウジアラビアばかりではなく、日本も米国債を売却しています。米国債売却は金利上昇を招き、米国に取ってもマイナスですから、日銀の米国債購入をこの事態への対策として打ち出せば、米国の容認を得られる可能性もあるでしょう。


最後に政府による国債の可能性を考えてみます。これについては財政再建を(表向きには)主張している財務省が強硬に反対するでしょう。だから財務省も納得できるロジックを考えなければなりません。

これについて、高橋洋一氏が興味深い提案をしています。この度、ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典氏が日本の研究環境の悪化と予算不足を改善するよう訴えていますが*4、これに対して高橋氏は、「基礎研究と教育の財源を、税ではなく国債で賄う」ことを主張しています。

1年前の本コラムでは、研究が社会の役に立つのかどうかわからないが、まず支援するという「パトロン的な支援」がこの国には必要であることを強調した。

通常の公的支援では、集めた税金を官僚の裁定や事業仕分けを行ったうえで研究費として配分する。彼らは「選択と集中」を目指すのだが、そう簡単にできるものではない。

基礎研究にかかる今後の公的支援を考えるには、まず、経済成長が必要である。と同時に、従来の「選択と集中」に代わる原則として「パトロン的支援」が必要だ。その具体的策として、儲かっている企業や個人が大学の基礎研究に寄付して、それを税額控除する政策があげられる。

本コラムでは、それをさらに強化する政策を考えたい。じつは、これは筆者が在籍していた財務省ではひそかに伝承されているものだ。おそらく、少なくない財務官僚が先輩から話を聞いたことがあるだろう。

結論からいうと、「基礎研究と教育の財源を、税ではなく国債で賄う」というものだ。

ちょっと信じがたいかもしれない。あれほどまでに国債を忌み嫌い、国債残高が1000兆円となっていることを「財政破綻になる」と煽る財務省が、実は基礎研究と教育は国債発行で賄うと内部ではひそかに話している……そんなことはあり得ないと思うのが普通だ。


(中略)


その財務省でも、「基礎研究と教育の財源は国債で」と言い伝えられてきた。そのロジックは実に簡明。だから、財務省としてもまともに言われたら反論できないのだ(こうした話は、財務省では「筋のいい話」という。基礎研究と教育は「筋のいい話」だ)。

基礎研究や教育のように、懐妊期間が長く、大規模で広範囲に行う必要のある投資は、民間部門に任せるのは無理があり、やはり公的部門が主導すべきである。

その場合、投資資金の財源は、将来に見返りがあることを考えると、税金ではなく国債が適切であるのだ。

「知識に投資することは、常に最大の利益をもたらす(An investment in knowledge always pays the best interest.)」というベンジャミン・フランクリンの名言もある。

特に、教育は将来の所得を増やすことを示す実証分析結果は数多い。例えば、高等教育は将来所得増、失業減などで、便益/費用は2.4程度。これは、現在の公共事業採択基準を軽くクリアしている。国債発行で教育を賄い、教育効果の出る将来世代に返してもらうと考えればいいのだ。


日本がノーベル賞常連国であり続けるには、この秘策を使うしかない!(郄橋 洋一) | 現代ビジネス | 講談社(1/3) 日本がノーベル賞常連国であり続けるには、この秘策を使うしかない!(郄橋 洋一) | 現代ビジネス | 講談社(1/3) 日本がノーベル賞常連国であり続けるには、この秘策を使うしかない!(郄橋 洋一) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)


このように急いで予算を回さないと日本の研究や教育がダメになり、しかもそれが日本の未来にとって効率の良い投資となるのであれば、国債発行の大義名分も立つでしょう。この記事の後半で高橋氏も指摘していますが、この国債を発行すれば、日銀は「イールドカーブ・コントロール」のためにそれを買うことになり、金融緩和も実現します。

同じように国債発行をすべき分野は、災害復興や、老朽化したインフラの整備や作り直しなど、いろいろ考えられるでしょう。このような分野で国債を発行すれば、それが「イールドカーブ・コントロール」によって金融緩和にもなるので、インフレ目標達成や景気対策にも大きな効果があるでしょう。

このような財政政策を行えば、10 年物国債金利と長期国債の買い入れ増加額の目標が矛盾することもなくなり、金融政策への信頼も回復すると思います。


日銀が今回発表した「総括的な検証」でも、インフレ目標を達成できなかった要因の一つとして消費増税が挙げられていました。消費増税はいわば「逆財政政策」というべきものですから、その是正を財政政策で行うことは筋が通っていると思います。日本には予算を回すべき分野が多く、金利が急騰するという懸念も今回の「イールドカーブ・コントロール」でなくなっているのですから、政府はもっと国債を発行すべきだと思います。

*1:この矛盾については、バーナンキ元FRB議長も指摘しています。The latest from the Bank of Japan | Brookings Institution」、日本語訳「2016-09-22_ベン・バーナンキ「日本銀行の最新発表」 - Google ドキュメント

*2:ただし、今回の決定でもインフレ目標達成を目指して金融緩和を続ける方針は維持されていますので、金融緩和の終了を目的として金融緩和の減額を行うテーパリングではありません。今回の日銀の措置がテーパリングだとする報道や意見もありますが、それは間違いだと言って良いでしょう。

*3:イールドカーブ・コントロール

*4エラー|NHK NEWS WEB 」、「大隅氏、基礎研究の危機訴え ノーベル賞金、若手支援に活用:朝日新聞デジタル」、「「日本発のノーベル賞は減っていく……」 科学界に不安が広がる理由:バズフィード・ジャパン

JancloJanclo 2016/10/16 14:09 日銀による資産の買い入れなら、米国債でなく、不動産でいいのでは?
中央銀行による外債購入の前例を作れば、将来民主党政権みたいな政権が出来たとき、悪用されるでしょ。(実際、民主党政権下では、外債購入は何度も出ていました。)

国民生活が困窮しているのだから、国民の雇用に向けて財政出動すべきですね。

教育は雇用効果も低いですし、学生にとっては、出口のほうが重要です。
だから、教育よりも企業のストック投資への減税拡大や、港湾や物流網の拡充など公共インフラの整備にもっと力点を置いてほしいですね。

財政投融資は、政府が実質ノーリスクでできる財政政策ですから、これを港湾整備や物流網にまで拡充すればいいんですがね。

BaatarismBaatarism 2016/10/16 23:26 >Jancloさん
株式や不動産については、以下のように証券化された形で、すでに買い入れを行っています。

>ETFおよびJ−REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。

ただ、あまり買い入れ額を大きくすると市場を歪めてしまう恐れがあるんですよね。
国が関与する国債ならまだしも、民間市場である株式や不動産をあまり動かすのは、できれば避けたいところです。

あと、時の政権によって中央銀行による外債購入が悪用されるという話については、中央銀行には金融政策の手段の独立性が保障されているので、政府が中央銀行に「あれを買え、これを売れ」などと指図することはできません。もっとも金融政策の目標(インフレターゲットなど)は政府と中央銀行が共有するので、独立性はありませんが。
ただ、国民生活のことを考えれば、外債よりも自国債の方が良いのは確かです。

最近は雇用も改善しているので、財政出動で学生の就職口を確保することの優先順位は低くなっていると思います。
ただ、高度な教育を受けた研究職の雇用はまだ改善していないので、研究への予算増額は彼らの雇用改善につながるでしょう。もともと能力があり、国からも高度な教育を受けた人材が不正規雇用で消耗しているのは、日本にとっても損失でしょう。
今の日本では、かつてのような公共事業だけではなく、このようなイノベーションにつながる投資も重要でしょう。

JancloJanclo 2016/10/17 12:52 Baatarismさん

J−REITで年間900億円買い入れていますが、REIT自体の規模が小さいため、緩和効果は限定的です。実際、法人企業統計でも土地の勘定はアベノミクスが始まった2013年を頭に下落傾向です。

FRBはMBSを80兆円近く購入したそうですが、資産デフレが深刻な日本でも、このレベルの資金投入が必要なのは明らかでしょう。

民間市場が歪むと言いますが、戦時中から歪むレベルで地方に米の買い上げや土建でバラマキした結果、国が豊かになってるんですから、別に私は躊躇する必要はないと思いますよ。

理工系の研究へ予算をあてるのはいいと思うのですが、別に大学偏重である必要はなく、企業へもっと手厚くしたほうが良いのではないでしょうか?
ポスドクを量産しても、企業での勤務経験が無ければ、人生設計の厳しさは改善しがたいでしょう。また、過去のノーベル賞受賞者には、ソニーや島津製作所といった民間企業出身者もいます。

2016-06-05

失敗した「社会保障と税の一体改革」

23:20 | 失敗した「社会保障と税の一体改革」を含むブックマーク

消費税の10%への増税問題は、安倍総理が増税を2019年10月まで2年半延期し、噂されていた解散総選挙・衆参ダブル選は行わないことで決着しました。前回の延期の時に、再度の延期はないと総理が表明していたため、安倍政権への批判が起こっていて、民進党など野党は「アベノミクスの失敗」と批判しています。

しかし、消費税増税の延期は本当に「アベノミクスの失敗」なのでしょうか?


そもそも、今回の消費税増税は、民主党の野田政権時代(2012年8月)に、民主、自民、公明の「三党合意」によって決まった「社会保障と税の一体改革」において、社会保障の財源を消費増税で確保するという方針の下に定められたものです。

その後、自民党では谷垣総裁が党内抗争で辞任に追い込まれ、安倍総裁が誕生しました。また、野田政権も2012年12月の総選挙で大敗し、自公連立の安倍政権が成立することになりました。安倍政権は金融政策、財政政策、成長政策を「三本の矢」とする「アベノミクス」を経済政策として採用しましたが、同時に三党合意を尊重し、野田政権時代に決まった「社会保障と税の一体改革」も引き継いで実施することになりました。つまり安倍政権の経済政策は「アベノミクス」と「社会保障と税の一体改革」の二本立てであり、消費税増税は「社会保障と税の一体改革」に属する政策だと言えるでしょう。

アベノミクス、中でも「第一の矢」である大規模な金融緩和は景気を回復させ、2013年度までは日本経済も良くなりました。これを見て安倍総理は消費税を予定通り増税しても大丈夫だと考え、2014年に消費税は8%に引き上げられました。


しかし、この時から景気は停滞しました。

消費税率を5%に戻せ - Baatarismの溜息通信 消費税率を5%に戻せ - Baatarismの溜息通信 消費税率を5%に戻せ - Baatarismの溜息通信

でも述べたとおり、それ以降家計消費は停滞したままです。

また、GDPも2014年4月以降停滞しています。

次に?現状認識である。第一に、GDPで見ると、安倍政権になってから2014年3月までは目を見張る成長をしていたが、2014年4月以降停滞している(下図)。GDPギャップは10兆円程度だ。


http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/0/1/600/img_011fe838e486b502d61830be883f130f79004.jpg


消費増税延期は断固正しい!  そのメリットをどこよりも分かりやすく解説しよう GDP600兆円も財政再建も達成できる | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 消費増税延期は断固正しい!  そのメリットをどこよりも分かりやすく解説しよう GDP600兆円も財政再建も達成できる | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 消費増税延期は断固正しい!  そのメリットをどこよりも分かりやすく解説しよう GDP600兆円も財政再建も達成できる | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]


このような経済状況を考えれば、景気を悪化させないために再度消費税増税を延期するというのは、当然の決定でしょう。安倍政権を批判している野党ですら、消費税増税を予定通り実施しろとは言っていません。


大規模金融緩和が景気を改善したにも関わらず、8%への消費税増税がこれだけ景気のマイナスの影響を及ぼしたことを考えれば、そもそも「社会保障と税の一体改革」による消費税増税自体が間違った政策だったと言えるでしょう。ただし消費税増税はアベノミクスで定められた政策ではないので、これをもって「アベノミクスの失敗」とは言えません。もちろん安倍政権は「社会保障と税の一体改革」を受け継いで消費税を増税したので、現状の景気悪化は安倍政権の責任でもありますが、「社会保障と税の一体改革」を決めた野田政権や民主党も責任を逃れられません。消費税増税延期を「アベノミクスの失敗」だという野党の主張は、野田政権や民主党を免罪しようとする間違った主張だと思います。


ただ、このような消費税増税の延期を永遠に続けるわけにはいかないでしょう。そもそも「社会保障と税の一体改革」の社会保障の財源を消費増税で確保するという方針が間違っていたことが証明されたのですから、安倍政権は「社会保障と税の一体改革」を撤回し、消費税率を5%に戻すべきでしょう。ただ、社会保障の充実は必要ですから、その分は国債発行で賄うべきだと思います。幸い、今は国債金利も非常に低く、国債への需要は大きいですから、国債発行を増やしても日本経済には大きな影響はないでしょう。もしこの国債を日銀が量的緩和拡大で買い入れれば、事実上のヘリコプターマネー政策となって、日本経済を回復させることになるでしょう。

ただ、プライマリーバランスなど、財政再建は遅れることになります。これは「社会保障と税の一体改革」という間違った政策を採用した代償ですので、過ちを認めるしかないと思います。


そしてその後には、「社会保障と経済成長の一体改革」と言うべき、社会保障の財源を経済成長で確保する新たな政策を打ち立てるべきでしょう。この政策は「社会保障の財源を消費増税で確保する」というような単純な政策ではなく、経済成長目標(例えば名目GDP成長目標)、金融政策、財政政策、税制、社会保障が相互に影響を与え合う状況を前提とした、複雑で細かい政策となることでしょう。

このような政策を「社会保障と税の一体改革」を失敗させた財務省や、彼らの言いなりになって「消費税増税でも景気は落ち込まない、むしろ未来の財政への信任が高まり経済は成長する」と言った日本の御用経済学者に任せるわけにはいきませんから、政治家が世界的な経済学者のアドバイスを受けながら、作り上げる必要があると思います。すでに今回の消費税増税見送りで、安倍総理は世界的な経済学者のアドバイスを受けていますから、今後はその知見を新たな経済政策の立案に生かす仕組みを作っていって欲しいと思います。


「社会保障と税の一体改革」を受け継いで失敗を招いてしまった安倍政権は、今後はこのような経済政策を推進して、汚名返上を目指して欲しいと思います。

JancloJanclo 2016/06/07 23:18 社会保障費を国債で賄うべきとの考えを示されてますが、現行の法律では社会保障費は毎年の赤字国債でしか賄えません。
従って、将来金利が上がった時は、社会保障の削減に繋がるのではないでしょうか?

これは、何も新しい話ではなく、かつての革新自治体や徳川宗春が陥った事態でもあります。

この辺りはどのように考えておられますか?

私はそういう時の為まで、外為特会などの剰余金は残しておくべきとの考えです。

BaatarismBaatarism 2016/06/08 22:54 >Jancloさん
もちろん、恒久的に赤字国債でまかなうことはできないので、これは一時的な措置として考えています。
長期的には経済成長による税収増と、経済が許容可能な程度の増税や歳出削減(消費税とは限りませんが)で社会保障をまかなうしかなく、そのためには経済成長が絶対に必要となります。「社会保障と税の一体改革」の間違いは、経済成長しなくても消費税率を上げれば社会保障費をまかなえると考えたことでしょう。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20160605

2016-05-05

重商主義が生んだトランプという怪物

00:05 | 重商主義が生んだトランプという怪物を含むブックマーク

米大統領選の共和党予備選は、2位、3位だったクルーズ氏とケーシック氏が撤退を決め、ドナルド・トランプ氏が共和党候補者となることが確実になりました。すでに民主党の候補者となることが確実であるヒラリー・クリントン氏と、本選挙で次期大統領の座を争うことになります。

しかしすでに様々な報道で指摘されているように、このトランプ氏は非常に問題の多い政策を主張しています。メキシコからの不法入国者を防ぐために、国境にメキシコの費用で壁を建設させることや、イスラム教徒を完全に入国禁止することを主張しています。

また、日本や韓国、ドイツなどの同盟国に、米軍駐留経費を全額払うように主張しており、同盟国の反発を呼んでいます。

共和党の大統領候補になることが確実になったドナルド・トランプ氏。5月4日、日本に米軍が駐留し続けるならば、全費用を日本が払うべきだと断言した。トランプ大統領就任が現実味を帯びる中、その発言に世界の注目が集まる。

日本には5万人近くの米軍が駐留する。駐留経費に関して、日本は2016〜20年度に総額9465億円を負担することで合意しているが、これは労務費や光熱費など全体の一部に過ぎない。


現実味を帯びるトランプ大統領 米軍駐留費用「日本が全額支払うべき」と断言 (BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース 現実味を帯びるトランプ大統領 米軍駐留費用「日本が全額支払うべき」と断言 (BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース 現実味を帯びるトランプ大統領 米軍駐留費用「日本が全額支払うべき」と断言 (BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース


一方、対立する中国やロシアに対しては、関係の立て直しが必要だと言っています。

アメリカ大統領選挙に向けた共和党の候補者選びでトップを走るトランプ氏が外交政策について演説し、アメリカ軍が駐留する日本などの同盟国には経費の負担の増額を求めていく考えを改めて強調する一方で、ロシアと中国に対しては関係の立て直しが重要だと主張しました。

野党共和党の大統領候補を決める指名争いでトップを走る不動産王のトランプ氏は、27日、首都ワシントンでみずからの外交政策について演説しました。

この中で、トランプ氏は、オバマ政権の外交政策によってアメリカの経済力と軍事力が衰えたなどと主張したうえで、もし自分が大統領に選ばれればアメリカの国益を最優先に掲げるアメリカ第一主義の外交政策を打ち出すと発表しました。

そのうえで、アメリカ軍が駐留する日本やヨーロッパなどの同盟国に対しては、「防衛にかかる費用を支払わなければならない。支払わないなら、自分たちで防衛させなければいけない」と述べ、経費の負担の増額を求めていく考えを改めて強調しました。一方で、ロシアと中国については、大きな問題があるとしながらも、「敵対関係になってはならず、共通の利益を見いだすべきだ。ロシアとの関係改善は可能だし、中国との関係を立て直すことも重要だ」と述べ、両国との関係の立て直しが重要だと主張しました。


トランプ氏 日本に負担増求め中ロ関係立て直しを | NHKニュース トランプ氏 日本に負担増求め中ロ関係立て直しを | NHKニュース トランプ氏 日本に負担増求め中ロ関係立て直しを | NHKニュース


利害を共有する同盟国を増やし、共同で利害が対立する国と対抗するのが、安全保障の基本のはずなのですが、トランプ氏の方針はこれとは真逆の結果を招いてしまうでしょう。

さらに先に述べたメキシコとの対立も中南米諸国との対立に発展しかねないです。

そしてイスラム教徒の入国禁止は親米派のイスラム教国を敵に回してしまうでしょう。その結果、利益を得るのはアメリカの敵である、IS(イスラム国)のようなイスラム過激派です。

トランプ氏の方針はユーラシア大陸やその周辺の同盟国を離反させ、この大陸を対立している中国、ロシア、イスラム過激派に譲り渡す結果になりかねません。

これほど倒錯した安全保障政策はないと思うのですが、なぜトランプ氏はこのような政策を主張しているのでしょうか?


その疑問を解く鍵は、実はかつての日米貿易摩擦にあると思います。

トランプ氏の日本批判が、1980年代の日米貿易摩擦の時と同じであるという指摘があります。また、安全保障についても、1980年代から今のような日本批判を行っていたそうです。

実はアメリカの対日貿易赤字は近年減少しているのですが、トランプ氏はそのような都合の悪い事実には目を向けないようです。

米大統領選への出馬の意向を表明し、現在、共和党の候補者指名争いをリードするドナルド・トランプ氏は、選挙活動でしばしば日本批判を繰り広げている。氏によれば、日本はアメリカとの通商、また安保同盟において、不当に利益を得ているというのだ。通商問題での氏の日本への批判は、かつての日米貿易摩擦の時代のようだとの指摘がある。また氏は不均衡な安保同盟への不満を、1980年代からすでにアピールしていたという。その反面、トランプ氏には、昨今の中国の経済的、軍事的台頭によって、アジアにおける日米同盟の重要性が増しているとの認識は薄いようだ。一部米メディアや識者が、その点からトランプ氏の主張に反論を行っている。


トランプ氏の日本観は80年代のまま? 繰り返される日本批判、現地メディアが内容を論難 | ニュースフィア トランプ氏の日本観は80年代のまま? 繰り返される日本批判、現地メディアが内容を論難 | ニュースフィア トランプ氏の日本観は80年代のまま? 繰り返される日本批判、現地メディアが内容を論難 | ニュースフィア

 しかし政治リスク・アナリストのトバイアス・ハリス氏は、日本がアメリカを食い物にしているというトランプ氏の主張はまったくの間違いで、経済上の利害関係においては、今日の日米間にはこれまでにない歩み寄りが見られると述べる(USAトゥデイ紙)。米商務省によれば、2015年の対日貿易赤字は686億ドル(約7.9兆円)で10年前の897億ドル(約10.3兆円)よりほぼ3割も減少した。アメリカの対中貿易赤字、3660億ドル(約42兆円)と比較すれば、いかに小さいかが分かる。米国議会調査局の2014年の報告書では、この10年間で日米は貿易摩擦を減らすための努力をしてきており、両国の経済関係は、「力強くかつ互いに有益」と結論づけている。

「アメリカをもう一度偉大な国に」と叫び、雇用を取り戻すと約束するトランプ氏だが、米週刊紙Barron’s(電子版)によれば、2014年には日本の自動車会社は140万人の米国人を米国内の工場で雇用しており、年間850億ドル(約9.8兆円)以上の給与を支払っている。また、日本は1兆ドル(約115兆円)以上を米国債に投資しており、中国とともにアメリカの借入費用を下げていることも、同紙はトランプ氏が忘れている点だとしている。

 このような意見を聞けば、トランプ氏の日本悪玉論には説得力がなく、日米が貿易摩擦解消に向けて続けてきた努力を台無しにする主張だと言える。


トランプ氏の日本に関する誤った言説が及ぼす脅威 信じた大衆に合わせて他の候補者も… | ニュースフィア トランプ氏の日本に関する誤った言説が及ぼす脅威 信じた大衆に合わせて他の候補者も… | ニュースフィア トランプ氏の日本に関する誤った言説が及ぼす脅威 信じた大衆に合わせて他の候補者も… | ニュースフィア


このように「日本がアメリカを食い物にしている」という主張は、「重商主義」という古い思想に基づくものです。

貿易と国家の繁栄を結びつける思想は、イタリアの諸都市において15世紀には存在していた。フィレンツェ共和国の外交官でもあったニッコロ・マキャヴェッリの『リウィウス論』や『君主論』、イエズス会の司祭であるジョヴァンニ・ボッテーロ(英語版)が書いた『国家理性論』において、そうした思想が展開されている。16世紀以降になると、ヨーロッパ各国で、貿易での優位が国内の利益につながると考えられるようになった。

17-18世紀のイギリスで隣国の発展を脅威と捉える人々が現れ、重商主義という経済思想が形成された。重商主義の主な考え方は、輸出はその国に貨幣をもたらすが輸入はもたらさないため、輸出は良いが輸入は良くないというものである。重商主義の基礎には近代国家があり、それを支える感情は愛国心、ナショナリズムである。重商主義は自国と他国を比較し、国家間に敵対関係を想定するものであった。


重商主義 - Wikipedia 重商主義 - Wikipedia 重商主義 - Wikipedia


このように輸出を善、輸入を悪とし、貿易での優位によって貨幣を獲得することが国家の利益に繋がるという考え方は、日米貿易摩擦の時にアメリカが主張した考え方そのものです。トランプ氏の考え方は、この重商主義をそのまま受け継いでいると思います。

このような重商主義の考え方は、過去の経済学者によって何百年も批判されてきました。経済学の父と呼ばれるアダム・スミスは重商主義を批判し、貨幣の獲得ではなく国民労働の生産力の増大のために貿易を行うべきだと主張しました。また、リカードは比較優位の概念を確立し、各国が自国が優位な産業に特化して貿易を行うことで、生産力が増大し、国際的に豊かな経済が実現できると主張しました。

現代でも経済学者の間には多くの意見の相違がありますが、重商主義が間違いであるという点については、ほとんど全ての経済学者の意見が一致するでしょう。

このように経済学の歴史は重商主義を批判、克服する歴史であったとも言えると思います。


しかし重商主義はどれだけ批判しても蘇り、日米貿易摩擦やトランプ氏の台頭のような現象を引き起こします。

このブログでも何度か紹介した経済学者、若田部昌澄氏は、やはりここで何度も紹介している松尾匡氏の論文を引用して、重商主義が人々を惹きつける理由を考察しています。

 こうした人間観はアダム・スミスにも共通する。『道徳感情論』の冒頭はこうだ。「いかに利己的であるように見えようと、人間本性のなかには、他人の運命に関心をもち、他人の幸福をかけがえのないものにするいくつかの原理が含まれている」。ここでは、利己的であると同時に他人を気にする存在として人間が描かれている。


 スミスは、他人を気にする存在である人間には、他人の感情や行為を評価する作用が備わっているとする。それが「同感(sympathy)」である。ここからスミスは社会秩序の基礎である正義がいかに生まれるかを描く。人々は他人に見られ、他人を見ることで「胸中の公平な観察者」を形成し、他人の感情や行為が適切かどうかを判断し、ひるがえって自分の行為を判断する。正義や義務の一般的規則の基礎にはこうした心理的作用があるとスミスは考えた。


 しかし、人々の同感能力には差がある。自分に近しい人と、遠い人に対して同感する力は変わる。また、「胸中の公平な観察者」の人は正義と義務の感覚を有するにもかかわらずそれを守ることができず、他人の世間的な評価に負けたり、あるいは「胸中の公平な観察者」の助言を無視して自己欺瞞に陥ったりする「弱い」存在でもある。


 こうしたスミスの考え方は、最近では行動経済学者から高く評価されている。行動経済学流にいえば、スミスの出発点は、バイアスを持つ存在としての人間であるとみなせる。また、「同感」と「胸中の公平な観察者」は、脳科学者にとっても新鮮な刺激を与えてくれるものと映るという。


 ところで松尾匡立命館大学教授は、反経済学的発想の典型的構造を3つにまとめている。

(1)操作可能性命題:世の中は、力の強さに応じて、意識的に操作可能である。

(2)利害のゼロサム命題:トクをする者の裏には必ず損をする者がいる。

(3)優越性基準命題:厚生の絶対水準よりも、他者と比較して優越していることが重要である。


 対して経済学的発想は、次のように特徴づけられる。

(1)自律運動命題:経済秩序は人間の意識から離れて自律運動した結果である。これを人間が意識的に操作しようとしたら、しばしばその意図に反した結果がもたらされる。

(2)パレート改善命題:取引によって誰もがトクをすることができる。

(3)厚生の独立性命題:他社と比べた厚生の優劣よりも、厚生の絶対水準の方が重要である。


 こう整理すると、スミスの行ったことは「要するに重商主義の『反経済学の発想』に対して『経済学の発想』をぶつけているのだ」ということもよくわかる。


 前回述べたように重商主義の基礎には近代国家がある。そしてそれを支える感情は愛国心、ナショナリズムである。重商主義は徹底的に自国と他国を比較し、その間に敵対関係を想定するものであった。スミスは、祖国愛を否定するわけではない。自分の身の回りの人々に愛を感じることは自然であり、必要でもある。しかし、それが偏狭な国民的偏見をもたらす可能性を見過ごすこともなかった。「我々の愛国心は、他のあらゆる近隣国の繁栄や拡大を、もっとも悪意に満ちた妬みや、羨望をもって眺めようとする気分にさせることが少なくない」。スミスの同時代には、イングランドとフランスとの対立には激しいものがあった。


 ただ、反経済学的発想は、行動経済学で説明可能だ。そして同感を基礎に置くスミスもそれに近いことを理解していたと思われる。誰もが子供の頃いじめっ子にいじめられたり喧嘩をしたり、社会人となっても世間で苦労をして、力の強い者と弱い者の違いを骨身にしみる。他人を気にするように他国を気にするのが人間であり、妬みや敵意もそこから生じる。重商主義の「わかりやすさ」の中には、人間が人間であるがゆえにもつ各種のバイアスが寄与していると考えられる。


書斎の窓 | 有斐閣 連載 経済学史の窓から 第6回 ヒューム、スミスは行動経済学の先駆者か? 早稲田大学政治経済学術院教授 若田部昌澄〔Wakatabe Masazumi〕 書斎の窓 | 有斐閣 連載 経済学史の窓から 第6回 ヒューム、スミスは行動経済学の先駆者か? 早稲田大学政治経済学術院教授 若田部昌澄〔Wakatabe Masazumi〕 書斎の窓 | 有斐閣 連載 経済学史の窓から 第6回 ヒューム、スミスは行動経済学の先駆者か? 早稲田大学政治経済学術院教授 若田部昌澄〔Wakatabe Masazumi〕

このように愛国心、ナショナリズムと「反経済学的発想」が結びついたところに重商主義が生まれ、それは人間が持つ各種のバイアスによって支えられているという考え方は、僕もその通りだと思います。

トランプ氏もまた「反経済学的発想」が考え方の基礎になっているのでしょう。だから自分の意見を否定する事実を否定して、重商主義的な考え方に固執するのでしょう。


トランプ氏の場合、特に「利害のゼロサム命題:トクをする者の裏には必ず損をする者がいる」という考え方が強いと思います。貿易も安全保障上の同盟も、「パレート改善命題:取引によって誰もがトクをすることができる」という考え方によって行なわれているものですが、トランプ氏はそのような考え方を否定して、「日本がトクをするなら、アメリカは損をしているに違いない」と考えているのでしょう。(これは相手が韓国やドイツでも同じことです)

だから日本などの同盟国を「アメリカからカネを盗む泥棒」と考え、それをやめさせるために同盟国に厳しい姿勢になるのでしょう。


一方、中国、ロシア、イスラム過激派のような対立国については、少なくとも安全保障面では利害のゼロサム命題が成り立っています。だからトランプ氏が大統領になっても外交関係には何の変化もなく、むしろアメリカと同盟国の関係悪化から利益を得ることになります。

このようにトランプ氏が「反経済学的発想」、特に「利害のゼロサム命題」に固執していることが、トランプ氏の外交政策を倒錯したものにしていると思います。


ただ、トランプ氏がこれだけ支持を受けているということは、アメリカ国民の中でも「反経済学的発想」が広がっているのでしょう。その理由は、貧富の差の拡大や中間層の没落により、これまでの経済政策が支持を失い、それに伴い「経済学的発想」も支持を失っているためでしょう。「反経済学的発想」は人間が持つ各種のバイアスによって「わかりやすい」思想になっているので、このような状況は「反経済学的発想」が広まりやすいのだと思います。トランプ現象もその反映なのでしょう。

しかし、その「反経済学的発想」に基づく政策は、明らかにアメリカや同盟国の国益を損ねます。その理由を理解するためには「パレート改善命題」を始めとする「経済学的発想」を理解する必要があります。


従って、かつてアダム・スミスやリカードが重商主義を批判したように、世界中の経済学者や、「経済学的発想」を理解する人たちは、「反経済学的発想」の表れであるトランプの台頭を批判すべきだと思います。

世界を「反経済学的発想」が支配する時代に戻してはいけません。もしトランプ氏が大統領になったら、その政策を徹底的に批判して、その問題点を暴いていくべきでしょう。

経済学という思想は、何度も蘇るゾンビのような「反経済学的発想」を、封じ込める戦いを繰り返す宿命なのでしょう。

janclojanclo 2016/05/06 14:00 Baatarismさん

>経済学の歴史は重商主義を批判、克服する歴史

しかし、近代経済学の祖であるケインズは下記のように述べているらしいですが。

>著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』において、重商主義を「復権と尊敬とに値する」と主張したという指摘がある

ケインズは経済学的発想を理解していないのでしょうか?


>輸出を善、輸入を悪とし、貿易での優位によって貨幣を獲得することが国家の利益に繋がる

しかし、国際的な取引(食料や原料取引)の現場では、ドル決済がほとんどなのですから、貿易でドルを獲得するのは、国家の利益に繋がりますよね?
ただ、そもそもアメリカはドルの発行主体なのですから、貨幣ならいくらでも発行できるわけですが。

トランプの経済感覚がぶっ飛んでいるのは同意ですが、行き過ぎた自由貿易やリベラル政策のせいで、米国の「古き弱者(女性や黒人、同性愛者などのマイノリティーではない、稼得能力の低い労働者)」が苦しめられているのは事実で、反経済学的発想だから、と言って無視していいものとは思えないですよ。

BaatarismBaatarism 2016/05/06 22:40 >jancloさん
同じコメントが2回投稿されていたので、1つを削除しました。

リカードの比較優位の考え方では、各国は比較優位な産業に特化するわけですが、現実には労働者や産業の移行がすんなり進むわけではなく、職を簡単に変われない人も出てくるでしょう。
ケインズ以前の世界では、そのような移行に伴う弊害が大きかったと思います。同じことは、現代のグローバル化でも言えるでしょう。(ちなみに第一次世界大戦前の世界でも、世界的な経済統合が進みグローバル化が進行していたと言われています)
そのような状況では、痛みを伴う産業の移行よりも自由貿易への反対の声が支持されやすいのでしょう。
ケインズの指摘も、そのような時代的背景の元で行われたものだと思います。彼は世界大戦と大恐慌でグローバル化が崩壊して、社会主義やファシズムが台頭する時代をリアルタイムで見ていた人で、「一般理論」もそんな時代に書かれた本ですから。

本来、自由貿易の推進は、それによって不利益を被る人や産業への移行支援とセットで行われるべきものでしょう。残念ながら後者の施策が欠けていたことが、自由貿易への反発を強めたのだと思います。

kenken 2017/05/06 09:45 なぜ反経済学が蘇るかといえば、究極的には分配の問題を自由貿易が(経済学的に)解決できないからでは?

〉自由貿易の推進は、それによって不利益を被る人や産業への移行支援とセットで行われるべきものでしょう。

このコメントに対する当然の疑問として
現在の日本の優位、劣位産業はなんなのか?
たとえば、優位産業を車両製造、劣位産業を農業だとして、車両製造産業に農業従事者約200万人を受け入れられるキャパはあるのか?
キャパがあり、技術の問題も解決出来たとして、200万人が追加で製造する車両を、この買ってくれるところが需要不足の世界のどこにあるのか?
「それは難しいので農業従事者には補助金や生活保護を!」となる場合、その原資は優位産業からの税等の負担(分配)にならざるを得ませんし、農業従事者はただ失業者として、ただ社会保障に食らいつく存在となります。
これに耐えられる人は少ないでしょうし、社会的に不健全です。

保護貿易によって劣位産業を保護する事こそ弱者への効果的な分配となるのでは?
と私は思ってますし、このようなことをトランプが本能的に理解してるから「反経済学的」「重商主義的」な政策が出てくるのだと思います。
トランプが安全保障上の危険人物であることは同意です。
しかし、トランプが「経済学」を理解していないのてではなく、「経済学」が現実を理解していないだと思います。

BaatarismBaatarism 2017/05/15 22:47 kenさん

コメントを見落としていました。すいません。
kenさんのコメントを読んで思ったのは、本当の問題は自由貿易ではなく再分配にあり、現在はまだ政治が裁量的な方法で再分配を行わざるを得ないから、「社会的に不健全」に見えるのではないかということです。
また、保護貿易によって劣位産業を保護したとしても、何を「劣位産業」とみなすかは政治によって裁量的に決められるので、優位産業や、本当は劣位産業でも政治的には「劣位産業」と認められなかった産業から見れば、やはり「社会的に不健全」に見えると思います。

これを解決するには透明性の高いルールに基づく再分配政策が必要でしょう。ベーシックインカムが注目されているのも、それがルールに基づく再分配政策だと思われているためでしょう。
どのような再分配がふさわしいかは、現在でも経済学が抱える大きな課題だと思います。