イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)

優良企業は優良企業ゆえに敗退する、というジレンマ。
これ読むと、5forcesとかとかSWOTとかへの見方が少し変わると思う。

※破壊的イノベーションとは、従来の技術とは一線を画す技術のこと。固定電話に対する携帯電話、総合証券に対するオンライン証券など。

【破壊的イノベーションにより駆逐される優良企業】

・上位市場をモノにした企業は、下位市場を志向することができない。既存顧客が見向きもせず、マーケットも小さい下位市場は、現在の主戦場である上位市場からすれば取るに足らないもの。しかし、その遅れが敗退を生む(例:コンピュータのHDは、破壊的技術はは必ず以前の技術より少ない容量だったが、少数派の顧客に評価される低価格、小型などの特徴があり、それが新たな市場を生み、育てていく)。


【破壊的イノベーションへの対応】
優良企業が破壊的技術を取り込むための5原則。

1.企業の資源配分のパターンは、顧客が支配している→適切な顧客設定が必要
2.小規模市場は大企業の成長需要を解決しない(旨みが少ない)→小さな組織に任せる必要性
3.破壊的技術の最終用途は事前に分からない。失敗は成功への一歩→失敗を早い段階で食い止めることが必要
4.組織の能力は、働く人の能力と関係ない→破壊的技術を取り込むためには、優良企業のプロセスや価値観は持ち込まない
5.破壊的技術は既存の市場では受け入れられないことがある→新しい市場開拓が必要

○ホンダの例
スーパーカブにより米国の下位層を開拓し、その後高品質化によって上位層を席巻。
ホンダはハーレークラスのバイク市場に挑戦するために海外営業をしていたが、その際にたまたま持ってきたスーパーカブが注目を集め、それが潜在市場開拓の一手となった。

【まとめ】
1.市場が技術に追いつかない場合がある。
2.イノベーションへの資源配分(ヒトモノカネ)のマネジメントが大切(既に成功している事業があるのに、あえてイノベーション部門へ資源配分をすることが必要)。
3.大抵の組織は専門化されており、既存の枠組みで儲けるためのネットワークができてしまっており、硬直的である。破壊的技術に準用できると思わないこと。
4.破壊的技術に市場の情報はない場合が多いから、試行錯誤が必要。
5.破壊的技術は先駆者有利、持続的技術は追随者でも不利ではない。
6.破壊的技術の新市場開拓は、自社の収益獲得モデルとはかけ離れたものあると認識すべき。

地方財政システム論

地方財政システム論 (有斐閣ブックス)

地方財政システム論 (有斐閣ブックス)


地方財政の現状の展望について分かりやすい解説書。京都府の地域金融機関・中小企業育成の話は面白い。
全体的には一般的な地方財政の解説本で、学生にも分かるようにやさしく書いてある。

【概略】
1.地方財政の歴史(地方税規則や戦後のシャウプ勧告など)
2.福祉国家論(NPOとの協働など)
3.分権化と地方政府収入(地方税補助金など)
4.地方債、地域金融
5.予算(住民参加型となるために)
6.持続可能な発展のために(環境、リサイクル、新エネルギー推進など)

【特記事項】
特に興味深かったのは、4の地方債の中で出てきた「京都府庁による府内地域金融機関の育成」について。

1950年代の京都府政の地域金融政策。
1.中小企業融資制度を設けた
今ではどこの都道府県も大体やってる、預託方式による融資。

2.地元金融機関を育成
京都市内に本店を置く金融機関が無かったので、1950年に福知山市丹波銀行を府の本金庫とし、翌年には京都銀行と改称、53年には京都市内へ本店移転となる。そして府下市町村の本金庫も受託し、全国有数の地方銀行へと成長した。
また、京都府信金・信組の育成にも力を注ぎ、これが現在の京都の「信金王国」へとつながっている。

3.地域密着型の金融経営
京都の金融機関は地元企業、ベンチャー企業への融資を積極的に行い、これが当時ベンチャー企業であったオムロンや京セラなどの大企業を生んだ。

1970年代に京都信金が打ち出していたコミュニティバンク構想は、金融庁リレーションシップバンキング構想を先取りしていたものだった。

ただし今後は公的金融の延長線上ではなく、民間資金をいかに公共に活かすかという話になる。
欧米の金融NPOグラミン銀行の可能性を指摘して、自治体がそれらを通じて民間資金が公共に流れるよう仕組みづくりを行うことを提案。

感想
地方財政関係の本はややこしいものが多い中、全体的に大変分かりやすく説明されていて好感。
京都府の地域金融機関育成施策を読むだけでも十分価値があった。

二兎を得る経済学

神野先生の本。スウェーデンを参考に、教育や福祉施策の重要性を説く。
【各国比較】

○米国
レーガノミクスにより米国は財政赤字を抱えたが、クリントンにより増税を組み込んだため、景気回復時に財政再建ができた。
・サプライサイドから減税すれば、景気回復時に社会不平等と消費税増税という政治コストが発生する。

スウェーデン
・就業者教育の強化や女性労働力の上昇により景気回復を実現。IMFOECDからの評価も高い。
・教育、環境、IT施策、育児を中心とした福祉施策の整備。
・地方政府の労働現物給付を中心とした行政サービス。

○独仏
マーストリヒト条約の制約下で財政赤字を減らすため、社会保障縮減や公務員リストラを行った。結果、財政赤字を抑えることはできたが、独仏ともに政権交代ストライキなどの政治コストを払った。
ちなみにフランスの公務員の就業者人口割合は約30%、日本は約4%。

【財政】
・財政は共同体の失敗から生まれたもので、市場の失敗から生まれたものではない。

・封建領主の世界では権力は領主が持っているが、民主国家になると社会、政治、経済という3つのサブシステムに取り変わる。

・公共事業の乗数効果は既に薄くなっているし、新たな産業創出にも寄与しない。

・赤字は地方に押し付けられた。地方は金融政策にもタッチできず、オープンシステムなので国のように住民の移動を縛ることもできない。このため、地方債へのフリーライドが起こる。米国では地方債を禁じる州も多い。

・日本は愚かにも、不況下で減収となる法人税所得税の減税を行ってしまった。そして消費税増税を選択する。これでは政治コストが高くつく。

・消費税増税財政再建は無理。方法は2つ、ハイパーインフレによる借金帳消しか、敗戦直後に実施された1回限りの財産税を課して国民資産を強制収用するか。いずれにろ政治・社会コストがかかりすぎる。

債務管理型国家の提案】
・政府債務を凍結、国鉄清算事業団のように債務管理する。
・英国のコンソル債のように、国債を永久に償還しない。

感想
・全体的に賛意。ただ、スウェーデンがなんでこんな上手く行ってるのかなあ。

債務管理型国家の提案は面白いと思う。

朝まで生テレビ 原発事故から1年

まあ大体予想通りの話であった。

【パネリストの感想】
細野豪志原発担当・環境大臣
いつもどおり、丁寧に答えてるなーという感じ。青年政治家って感じ。

河野太郎自民党衆議院議員
ほんとよくしゃべるな。田原が閉口するくらいよくしゃべってた。自民なのに革新的。

香山リカ精神科医立教大学教授)
安心の香山クオリティ。

○木元教子(評論家、元内閣府原子力委員)
ただの保守婆さんだと思ったら意外に息子が原発作業員だった。

○澤昭裕(NPO法人国際環境経済研究所所長)
経産省の代弁者。そうそう間違ったこと言ってないけど、ポジショントークに終始。ザ・官僚。

○田坂広志(元内閣官房参与多摩大学大学院教授)
リベラルでまとめ役な感じ。

○奈良林直(北海道大学大学院教授<原子炉工学>)
原子力ムラの代弁者。

長谷川幸洋東京新聞中日新聞論説副主幹)
よくしゃべる脱原発派。



【全体的な感想】
元官僚とか原発学者は「原発稼動さえねえとやべえ」しか言わないし、脱原発派の新聞社幹部や香山リカは「政府に対する信頼が無いんだ、まず信頼を構築せよ」しか言わないし。
展開は分かってたんだけど、ついつい見ちゃった。

ただ、観客席から意見があったときはちょっと雰囲気が違った。
老婦人の意見。

「今までの話を聞いていて、こんな空理空論で議論をされているのかと愕然とした。ここにいる人達は、自分の身内を福島に住まわせて欲しい。そうでないと、真剣な議論はできない」

これを言って、スタジオの空気がシーンとなった。
多分みんな「気持ちは分かるけど、そんな無茶な」って思ったんだろうな。

まず細野氏が答えた。
「これは福島に入っていろんな人に言われた。ただ、私にも選挙区があるし、それは一人の人間として理解して欲しい」
→そりゃそうだろうなあ。原発担当大臣だっていつ辞めるかわかんないし。そんで原発大臣辞めて引越したら、福島の人から「見捨てた」だのなんだの言われるんだろ。
この答えで正解である。

次に木本氏。
「今まで言わなかったが、私は次男が福島第2原発で働いている。福一爆発後も今も働いている。だから、あなた達の気持ちも分かるつもりだ」
原発推進の立場を取っていると思っていたので、意外な発言だった。発言しているときの木本氏は今までのややヒステリックな婆さんではなく、どちらかというと悲しそうな母親の顔をしていた。この発言で空気が少し変わった。

最後に田坂氏。
「私も積極的に言っていないが、今まで放射能に関わる仕事でそれなりに被爆し、一度大きな病気になった。そのとき、基準以下ではあるが、あれだけの放射能を浴びたことが原因となったのではないかと思い悩んだことがあった。だから、私が健康リスクだけでなく心理的な要因を考えるべきというのは、そういう自身の経験から言っている」
→そういう根拠があったんだな。得心がいった。

NHKスペシャル 3.11 あの日から1年 南相馬 原発最前線の街で生きる

昨日の原発マネーが面白かったので、今日も見た。
結論としては、今まで見た原発関連のドキュメンタリーの中で、最もいい作品だった。
取材対象の声をなるべくそのまま流し、独特の間と、人の表情を追う構成。

【内容】

南相馬に残った老夫婦
50人100人いる避難所で安眠なんてできないと思いますよ。
我々老人は先が見えてますから。長生きしたいと思わないし。
終着駅に間もなく着く。


○飲食店店主
娘の結婚相手は福島第1原発に行ってる。別れなさいともいえない。
相手は100ミリシーベルトは浴びてる。それでちゃんとした子どもができるのか。

○酪農家
士農工商知ってるか?一番ひどいの知ってるか?(商ですね)
でも、逆でしょ。商がトップで、武士が2でしょ。
農が一番下なんですよ。
その一番下で生活してる人間が、何を言ったって誰も聞いてくれないの。
同じ人間で、東電の社長が言えば、国が動くんだ。
ダメだ、涙出てきた。
いいや。

○スナックの客
今日ラジオで聞いた。月に行った人が、放射線をすごく浴びる。でも、長生きしてる。甲状腺がんが増えるとか、嘘だと思いたい。

○タクシー運転手
かわいそうですよね、ひまわり。
セシウム取るためだけに植えられて。

○農家
(田んぼを耕さないと1年で荒れる。だから自分で食べる為に米を育てていた。しかし、市やJAは、補償を勝ち取るためには全ての農家が足並みを揃えて作付けをやめるべきだと説得した)
もう終わりだ。こんなに立派になって…。せっかく植えたのになあ…かわいそうに。
何もええことねえ。夜になるといろいろ考えるべさ。このまま死んだ方がええて。

○電力施設で働く人(父親が原発作業員派遣業を営む)
子どももう一人欲しいですけど、福島第1原発線量高いじゃないですか。だからもしものこと考えると、あまり行きたくないな、とオヤジには言った。どうしても仕事無ければ行くしかないけど…。どうしようもないすね。

○成人式後の飲み会
(女性)
子どもも産める年だし。
結婚だって、二十歳になったら、勝手にしていい年だし。
なのに、そんな心配にかられて、落ち込んだ何だって、考え込まないといけないの?
人生終わったもんだって、期待してないし。
先輩も、放射線が怖いから産めない、(子どもを)おろしに行くって。
何でそんな自分の体痛めて、怖いから、子どもにも悪いけどって、子どもをおろしに、なんで行かなきゃならないの?
精神的にも、体的にもくっぺよ。
なんでそうやって悲しまなきゃなんないの?苦しまなきゃなんないの?
何でさ、そういう、普通に何でもなかったら、その子も産まれて、その人達も普通に結婚して幸せな家庭築いてさ。
何年後かに幼稚園入れて、小学校入れてってやってんのに、何で苦しまなきゃなんないの?
うちらはもう別に子ども産む気ないし。別にね。だからうちらみたいなのはどうでもいいけど、
何でそうやってさ、みんなが苦しまなきゃいけないの?

(男性)
最悪、楽しんで死のうと思って。
俺らは実験材料よ。

(女性)
ただのマウスだよね。
じゃあいてやるよ。子ども産んでやるよ。


○20キロ圏内から避難し、就職した人
1時間当たり4マイクロシーベルトですかね。高い人は20とかの人もいますけど。
やっぱり何か仕事する上では、復興の役に立ちたいというか。
(ふるさとを除染するために、青年は20キロ圏内へ向かった)

【感想】
言葉が無い。彼らと僕らを分けた違いは何だったんだろう。
多分、何も無かった。たまたま彼らが犠牲になった。

昨日の放送で原発立地自治体に多額の原発マネーが流れ、地元が潤っている話が出ていた。
それを見ていて、「ほんとどうしようもない構造だなあ」と思っていたのだけど、今日出てきた人達を見てると、「この人達と自分達は、一体何が違うのだろう?」と思ってしまった。

彼らは原発があるということが所与の条件であって、その下でごく普通に暮らしていただけなのだ。
僕が同じ状況下でも同じような選択をするだろう。
だって、基本的に日本の地方都市なんてどこに住んでもみんなそれなりに幸せや不幸せを感じながら暮らすものなんだから。
彼らと僕らが違うのは、政治的判断により原発があった、ということだけ。

放送に出てくるのは、酪農家の人達、成人式を迎える若者、農家、タクシー運転手など。彼らは原発という政治判断にどれだけ関与し得ただろうか。どれだけその見返り(地域振興など)を獲得し得ただろうか。
多分、ほとんど関与できなかった、しなかったんじゃないか。
自治体で同じように暮らしている人達と大差ないんじゃないか。

そう思うと、彼我の差とは一体なんだったんだろうか、と思う。
世間は脱原発やその脱原発に対する批判など、実にかまびすしい。
しかし現実には、そこに住んでいる人は他自治体に住んでいる人と同じように暮らし、原発の影響を受けて悲惨な目に遭い、失業した人はその原因となった原発の作業員として就職することになる。

彼我の差など紙一重なのだ。
我々はいつでも、あっち側に行く可能性がある。
そう思ったら、今騒いでる議論ももう少し当事者意識を帯びるんじゃないかな。
鏡に映った世界を見ているようだった。


【スタッフについて】
放送後、取材・撮影者の菅井禎亮氏、ディレクターの国分拓氏が気になった。
検索してたら、次のエントリが見つかった。
国分 拓著『ヤノマミ』(NHK出版)
http://silhouette.livedoor.biz/archives/51616780.html
このエントリを見て、あの取材スタンスに納得がいった。

国分拓氏はウィキにも概要があった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%88%86%E6%8B%93

またこの二人の作品を見てみたいと思う。

調査報告 原発マネー

調査報告 原発マネー
http://www.nhk.or.jp/special/onair/120308.html


【内容】
福島県楢葉町
歳入の4割を原発マネーが占める。財源が無くなり復興立ち行かず、中間貯蔵施設の立地による交付金も検討。

新潟県柏崎市
原発交付金は使途が公共施設建設に限られ、その修繕費で原発立地自治体の財政が逼迫している。

青森県
県内では六ヶ所村再処理事業への反対が根強かった。選挙により反対派の知事に変われば事業が行えないため、歳入を気にする県と電気事業連合会が財団法人を設立し、立地自治体だけでなく、県内全市町村に寄付金がばらまかれた。カネの効き目はてきめんで、平成21年の事故の際も文句を言う首長はいなかった。
(寄付金は福祉サービス等に活用されている様子)


【感想】
・地域振興のために原発誘致というのがまず理解しかねるのだけど。当時は原子力は絶対安全のエネルギーで、それでめっちゃめちゃにお金が入ってくるならいいじゃん、っていう理解だったんだろうか。

・当時の国の担当者で出てきたエネルギー庁課長が「地域振興なんて自治体が自分で考えることだろ。甘えてんじゃねーよ」と言っていたが、「札束で貧乏人のツラをはたいた」後に言う言葉ではないなあ。あさましい。

人間回復の経済学

人間回復の経済学 (岩波新書)

人間回復の経済学 (岩波新書)


行き詰まったケインズ福祉国家の次は新自由主義ではなく、シュンペーターワークフェア国家へ。
「未来を神の見えざる手(マーケット)に委ねるのではなく、知恵のある人としての人間が、人間の目指す未来を創造しなければならない」

新自由主義とは強者の論理。アダムスミスの古典派経済学から公共の概念を払拭し、効率だけを求めた思想。

サッチャー政権
1.生産性は向上したが、技術革新ではなく人員リストラによるもの。
2.倒産件数は5倍に増えた。
3.犯罪件数が増加。警官数を増員しても増加傾向は止まらず。

レーガン政権
サッチャーが民営化を基礎においたのに対し、レーガンは減税中心。

・大量生産、大量消費に支えられたケインズ福祉国家スタグフレーションにより行き詰った。その代替として新自由主義が台頭してきたが、それでは時間を逆戻りさせるだけだ。

・知識社会を目指すべき。スウェーデンでは地域開発グループの存在が大きい。全国に4000以上ある。主にIT、福祉、観光に取組み、政府もその活動を支援する。

・北欧諸国はGDP比の教育支出が高い。日本はその半分くらい。

・サービス給付は地方政府が行い、中央政府はミニマムの現金給付を行う。現金給付からサービス給付へ転換していく必要性。

【感想】
新自由主義の思想はジリ貧(デフレ)であり、ドカ貧(負ける博打)だなーと思う。
なんつーか安易なんだな。