Judith P. Butler (1956年2月24日-) ポスト構造主義思想家。 カリフォルニア大学バークリー校の修辞学・比較文学教授であり、フェミニズム、クィア理論、政治哲学、倫理学に寄与。 『ジェンダー・トラブル─フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(青土社、1999年)で理論家としての地位を確立。 ユダヤ系出自であり、レズビアンである事を公言。
読んだ本 マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』ハヤカワ文庫 (2023) 松岡正剛『性の境界 千夜千冊エディション』角川ソフィア文庫 (2023) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 いよいよサンデル氏のこの本が文庫化され、コンパクトになり電車内で読みやすくなったので読んだ。 これも重厚な内容なのでいっきに読み進めることはできなかったが60ページほどは読み進んだ。 能力主義と親ガチャについては一般的に知られるようになったのか、この本の売り上げ数と文庫化の早さはそれを象徴しているように自分には見えた。日本のサラリーマンや学生はこ…
人は自身のジェンダーを一人で「行って」いるのではない。 たとえそれが想像上の他者でしかないとしても、人は常に、他者とともに、他者のために、「行って」いるのである。
* クィア・スタディーズとLGBTQ クィア・スタディーズとは性の多様性を考察する比較的新しい学問領域であり、とりわけセクシュアルマイノリティ(性的少数者)に関する論点を多く扱います。周知の通りセクシュアルマイノリティは近年において「LGBTQ」という「Lesbian レズビアン」「Gay ゲイ」「Bisexual バイセクシャル」「Trancegender トランスジェンダー」「Queer/Questioning クィア/クエスチョニング)」の頭文字をつなげた言葉で呼称されるようになりました。こうした「LGBTQ」を理解する上で鍵となるのが「性的指向(Sexual Orientation 恋…
読んだ本 ヘレン・プラックローズ/ジェームズ・リンゼイ『「社会正義」はいつも正しい:人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて』早川書房 (2022) つづきを読み進めた。 nainaiteiyan.hatenablog.com ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 第四章「クィア理論」の終わりまで、139項まで読み終えた。 ここまで読むことによって著者が「クィア理論」や「ポストコロニアル理論」に対してどういう感情を抱いているのか理解できた。 これらの理論を俯瞰的に見ているようにみえるなかで「暴言」の類いも時々見受けられた。 これはい…
読んだ本 ヘレン・プラックローズ/ジェームズ・リンゼイ『「社会正義」はいつも正しい:人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて』早川書房 (2022) つづきを読み進めた。 nainaiteiyan.hatenablog.com ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 久しぶりに読み進めた。 今日は第2章の初めから第3章の手前まで読み終えた。 ニューアカデミズムは1990年代頃に徐々に衰退。 しかし、形を変えて、つまりポストモダンの理論を応用させた「応用ポストモダン」が2010年代にかけてアクティビストたちによって幅を利かせた。 それら…
ハーマン・メルヴィル『ピェール 黙示録よりも深く (下) 』幻戯書房 (2022) サラ・サリー『シリーズ現代思想ハンドブック:ジュディス・バトラー』青土社 (2005) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー メモ "彼がより賢明で、思慮深くなればなるほど、日々のパンを得る機会が減ってゆく。それなら、自分の深淵な書を窓から放り捨て、いくらか身を落として、長くてもせいぜい一か月で書き上げることのできる、かなり薄っぺらなくだらない小説を書いてみたらどうだ。そうすりゃ、称賛と報酬をほどよく期待できる。しかしピェールの心を貪り食うような深淵な思想が、今や彼の心の…
読んだ本 サラ・サリー『シリーズ現代思想ハンドブック:ジュディス・バトラー』青土社 (2005) 引用元:版元ドットコム ロージ・ブライドッティ『ポストヒューマン:新しい人文学に向けて』フィルムアート社 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー メモ "主体とは、個人が理解可能性を達成し、再生産するための言語学的根拠であり、その存在と行為能力の言語学的条件である。" (『権力の心的な生』P20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 日記 バトラー『欲望の主体』に挫折してしまったが、『反「大学革命」論』のなかに書かれて…
フェミニズム、女性の性的消費について、女性の権利について、これに関する話題は定期的に盛り上がるね。こんな記事を見かけた。 b.hatena.ne.jpなるほど、「フェミニズムから離れていく若い女子」は何を考えているか?という問い。これを今日の記事の肴にするか。確かにこの記事で述べられている結論、 反対すべき理由があり、賛同すべき理由がないからです。私たちの利益を代弁していないからです。私たちの楽しみを奪うからです。女性当事者が多くいる領域でバッシングを行っていると認知されてきているから。 は、共感できる気もする。だけどもう1つある。フェミニズム離れの最も大きな原因だと思われる理由がある。それは…
この話題、長いな。まだ盛り上がってるんだね。 b.hatena.ne.jpこの広告に嫌悪感を抱く人を精神分析してみるか。そもそもなんでこの広告を嫌悪するのか、自問自答してみるといい。まず結論として、この嫌悪感は「たわわな女子高生」それ自体というよりは、「たわわな女子高生をまなざす男性」に嫌悪感を抱いている。それを証明するのが、「豊満なバストを持つ女性が男性に礼賛される」「豊満なバストを持つ女性が性的に消費される」という現実だ。その現実の形成過程は話が長くなるから割愛。この「まなざし」という概念は、フワちゃんや指原莉乃になりたい願望の中に「フワちゃんや指原以外の他人」が混ざっている理由について精…
本文章は、海外PhDのショライさん(@phd_arai)主催の『ジェンダー・トラブル』読書会のために作成したレジュメである。ここでは自分が担当している2章3節「フロイト、およびジェンダーのメランコリー」について取り扱う。この節は、バトラーによるジェンダーのトラブルの実践について語られる。扱う対象は主にフロイトである。以下では、文章を読解するに当たって必要と思われる情報を説明していく。フロイトの理論には用語が多いため、その用語を適宜強調しながら説明を行う。 ① フロイトについて ジーグムント・フロイト(1856-1939)とは、「無意識」の概念を発見し精神分析を創始した精神科医、思想家である。彼…
2024-05-05時点でのニフコの最新文献 30本(日本語)です。●平均台の技術開発に関する発生運動学的研究(方) https://cir.nii.ac.jp/crid/1390294507109746688●時代の転換期にフーコーを読む https://cir.nii.ac.jp/crid/1523388080980399616●風のプロムナード-ニフコYRP- https://cir.nii.ac.jp/crid/1571417128049618560●風のプロムナード-ニフコYRP-(関東) https://cir.nii.ac.jp/crid/1573387452886799872●…
@旧第一銀行横浜支店会場 1階 登壇者:松本哉(リサイクルショップ「素人の乱5号店」店長) リウ・ディン[劉鼎](第8回横浜トリエンナーレアーティスティック・ディレクター) キャロル・インホワ・ルー[盧迎華](同上) 聞き手: 蔵屋美香(横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター/横浜美術館館長) 通訳:池田リリィ茜藍・魯迅『野草』 五・四運動(1915年の日本による対華21カ条要求の内容不満により1919年に発生した抗日、反帝国主義を掲げる学生運動、大衆運動)のバックラッシュ(反動、揺り戻し)に絶望した魯迅が自らを徹底的に内省した作品。 ・「絶望は虚妄だ、希望がそうであるように」 ・「魯迅…
しょくん、わたしは本が好きだ。「わたしが好きな本10冊」みたいなリストも好きだ。というわけで、以下にそのリストを組んでみる。なおオールジャンルなので、よろしく。 一覧 ①永井均『マンガは哲学する』 ②野矢茂樹『論理トレーニング』 ③熊野純彦『カント 美と倫理とのはざまで』 ④ジル・ドゥルーズ『ザッヘル=マゾッホ紹介』 ⑤アンリ・ベルクソン『笑い』 ⑥イマニュエル・カント『純粋理性批判』 ⑦ジャック・ラカン『精神分析の四基本概念』 ⑧Robert Pippin *Hegel's Idealism: the Satisfaction of Self-consciousness* ⑨ひげなむち『おと…
笑い (光文社古典新訳文庫) 作者:ベルクソン 光文社 Amazon 古典的なところから始めよう。かつてアンリ・ベルクソンは喜劇的なものにおける笑いを共感的なものではなく、むしろ知性的なものとして捉えた。 無関心な傍観者として生に臨んでみてほしい。そうすれば、たくさんのドラマが喜劇に転ずることだろう。人が踊っているサロンで、音楽の音に耳をふさぐだけで十分だ。踊っている人たちがたちまち笑えるものにみえてくる。(…)要するに、おかしさは、その効果を発揮するために、心情[心臓]に瞬間的に麻酔をかけるような何ものかを必要とするということだ。おかしさは純粋知性に訴えかけるのである。(24-25) 人間の…
『美と殺戮のすべて』 サービスデーだったので有楽町でローラ・ポイトラス『美と殺戮のすべて』(2022)を見てきた。 ナン・ゴールディンには、荒木経惟的な「私写真」のひとという雑なイメージしか持っておらず、ほとんど興味がなかったのだが(どちらかというと同時代の写真家ではティルマンスに関心があった)*1、オピオイド危機の最中、抗議活動を展開したということを知り、アート・アクティヴィズムへの関心から映画を見た。 ※下記ネタバレあり。注意※ 冒頭に描かれるのは2018年のNYのメトロポリタン美術館での「ダイ・イン」。ゴールディンらが結成した支援団体P.A.I.N.(Prescription Addic…
第一章(03/31読了) 第二章(04/01読了) 第三章第一節(04/02読了) 第三章第三節(04/03読了) 第四章(04/04読了) 第五章(04/05読了) おわりに もしかすると、哲学分野に親しみのないリスナーにはかなり敷居の高い本、と見えるかもしれない。SNS上にも一部、そのような不安を吐露するものがみられた。だが、未知の学問への一歩は、往々にして現状の自分に対する挑戦の一歩であるものだ。 読み通せない、理解できないかもしれないといった不安など、どんな立場の読者にもついてきて当然の悩みといえて、哲学書をちょくちょく買って読み続けてきたぼくのような読者だって、そのような迷いやビビり…
『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』(在日本韓国YMCA編集、新教出版社、2023)を読みました。在日本韓国YMCAは、日本・韓国・在日朝鮮人を架橋する運動体であり、2006年からはパレスチナとの交流事業を継続してきました。 現在、イスラエルによるパレスチナ占領が続いていますが、このことと、フェミニズム・黒人運動・クィア理論・在日朝鮮人・日本赤軍・解放神学といったテーマの交差性を論じる論考が掲載されています。いまパレスチナで起こっている出来事が、まさしく「わがこと」であることを教えてくれる本であると言えます。 今回は、第5章「パレスチナの歴史的鏡像としての在日朝鮮人――私が私たちになる…
また眠気よ 米: 最高裁がテキサス州独自の不法移民取締法にゴーサイン(行政は様子見)、だが… Supreme Court allows Texas to begin enforcing controversial immigration law | CNN Politics Appeals court puts controversial Texas immigration law back on hold | CNN Politics 結局巡回裁判所にブロックされてしまいましたとさ。この他にも色々審理が待っている。 気になる本: Who's afraid of gender? Judith …
こんにちは。 春分の日ですね。風が強くて寒いですけど。でも、来週には桜が咲くとか。 というわけで、予告通り、ためぐそ山に登ってきました。武蔵五日市駅から北東に歩いていきます。マイナーな山すぎて、登山口が見つからないのですが、それでもどうにかたどりつきました。何もない見晴らしの悪い里山でしたが、ちゃんとためぐそ山って書いてありました。その下、谷間には金玉水。なんかいいですね。 ここから幸神尾根を登り、金毘羅尾根から下山。幸神尾根は整備はされていないけどなだらかなアップダウンの道、金毘羅尾根はけっこう整備されていて歩きやすい道でした。 植林の針葉樹と常緑広葉樹でちょっと面白みには欠けるコースではあ…
おはようございます。 7時起床、二度寝。9時に再び起床。二度では飽き足らずついに三度寝。11時起床。早起き失敗。むしろ普段以上に早く寝たつもりだが、なぜ。映画を観る習慣を絶って以来全然起きれん。映画を観ないと早起き出来ない病気にでもかかったのだろうか。 さて、今日は最近読んだ音楽本の話をしよう。ここ4週間で4冊読んだ。 なお現在の私生活における趣味の優先順位はおおよそ「音楽>>映画>運動>読書」のようになっている。読書は最もスローペース。そういう気分としか言いようがない。 imdkm『リズムから考えるJ-POP史』 音楽ライター・imdkmがリズムを軸にJ-POPの変遷を語った一冊。とても読み…
今回は、藤高和輝「パスの現象学―トランスジェンダーと「眼差し」の問題」(『フェミニスト現象学』ナカニシヤ出版、2023)を取り上げます。「現象学」が冠される本を読むのは初めてでしたが、専門知識が無くても読めるように工夫されていて、私にも分かりやすく読むことができました。この本はさまざまな著者による論文集ですが、今回は藤高さんの論文を読みます。 この論文は、トランスジェンダーの「パス」に焦点を当てて、他人にジェンダーを判断されるという営為について考察するものです。 「パス」とは、出生時に割り当てられた性別が、他者に読み解かれないようにする実践を指します。たとえば、トランス女性が周りから女性として…
昔からけっこう本を読むのが好きだったのですが、約10年くらいでやっと「本で読んだ内容が身についている」という実感を安定して持てるようになってきました。*1 というか、そういう読み方がやっとわかってきたという感じです。 そんなわけで、本を読むうえで大事だと思っていることを備忘録として残します。 「本の読み方」なんて本もYouTube動画も山ほどあるので、それを伝えることやその完成版を作ることが目的ではありません。 自分の今の実感を表現したいだけです。 「いい読書」という観点では、自分は以下の4つを意識することが重要だと思っています。 「目的を持つ」「本を選ぶ」「本を読む」「アウトプットする」 こ…
* トラウマという領域 戦争や災害や事件や事故といった出来事はしばし人のこころに「トラウマ」と呼ばれる深い痕跡を残します。従来、トラウマをめぐる研究は精神医学、心理学、文化人類学、当事者研究といったさまざまな学問領域において多角的な視点から行われてきましたが、1980年にアメリカ精神医学会が『精神障害の診断・統計マニュアル第3版(DSM-Ⅲ)』に追加したPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)というカテゴリーはトラウマ研究において大きな転機となりました。 PTSDの主な症状としては⑴再体験ないし侵入(外傷的な出来事がイメージ・思考・知覚の形で反復的かつ侵入的に想…
20世紀の哲学は、前例のないほどの多様性と深みを持っています。この時代には、存在論から倫理学、政治哲学に至るまで、人間の思考と存在に関する根本的な問いが提起されました。ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインからジュディス・バトラーまで、ここで紹介する10人の哲学者は、それぞれ独自の視点からこれらの問いに答えを出し、後世の哲学に大きな影響を与えています。初心者の方々にもわかりやすく、それぞれの哲学者の核心的な思想を500文字で紹介していきます。 1. ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン ウィトゲンシュタインは、言語とその意味に焦点を当てた20世紀を代表する哲学者の一人です。彼の主著『論理哲学論考』で…
※前編と中編はこちら↓をご覧ください。 4 周縁化の事例 4.1 あからさまな排除/マジョリティへの回収による抹消 4.2 LGBTコミュニティからの無理解 4.3 フェミニズムからの無理解 5 対人性愛中心主義を説明するためのクィア理論 6 連帯に向けて 注 文献 関連する拙論 日本語文献 翻訳文献 英語文献 4 周縁化の事例 4.1 あからさまな排除/マジョリティへの回収による抹消 以前書いた論文で、フィクトセクシュアルに関するSNSの投稿を分析したのですが、そのときのデータをもとに、フィクトセクシュアルに対する差別的な言説をいくつか紹介いたします。まず典型的な偏見が、「正常」な対人関係を…