近年の伝記映画ブームでは、ボブ・ディランやフレディ・マーキュリーといったカリスマ的人物の生涯を、大きく劇的に描き出す傾向がある。一方で、「ドラマ性を優先するあまり、歴史的事実や人物の複雑さが単純化される」という批判も根強い。 1996年に公開された、27歳で夭折したジャン=ミシェル・バスキアを描いた伝記映画『バスキア』(ジュリアン・シュナーベル監督)も、例外ではない。カルト的な人気を誇る一方で、脚本の完成度には批判もある。しかし、ハイチ系およびプエルトリコ系アメリカ人として複雑な時代を生き抜いたバスキアの表現世界は、一面的な評価では捉えきれない。 いまはもう存在しないミニシアターでこの作品を観…