ケリーと私はテンダーロイン署を出てエディーストリートを西に向かって歩いていた。時刻は午後3時をまわっている。外はだいぶ冷え込んできた。冷たい風に乗って霧が降りてきている。 霧がサンフランシスコ上空にとどまって町まで降りてこない日もある。しかし、今日はあと数時間でベイエリア全体が靄に包まれるだろう。今、霧のベールはゆっくりとフィルモアストリートを覆っていく。テンダーロインに霧のベールがかかるのもあとわずかの時間である。 ストリート沿いの店は早々と<閉店>の看板を掲げているところもあった。空っぽの店舗、酒屋、倉庫のような小さな事務所、安ホテル――どの店の入り口も汚れていて、尿のすえた臭いと嘔吐物、…