Democracyの訳語。人民主権のもとに政治が行われること。民主政治、民主制などとも。元来は古代ギリシア起源の政体分類のひとつ。
前近代の政体論的意味では、主権に与かる範囲によって、君主制、寡頭制(貴族制)に対立する。主権者が一人の場合が君主制であり、主権者が限定された複数である場合が寡頭制であり、限定されず全員である場合が民主制である。
従って、例えば中世イタリアの都市国家のように王はいないが特権豪商身分による合議が主権を行使しているような場合、共和国ではあるが民主制ではない。
近代になって啓蒙主義以降、デモクラシーという語は多様な意味合いをはらむようになったが、古典的政体分類論における意味を中核として残しつつも、主権の根拠を自由で同格な市民による合意とみなす社会契約論的な色彩が加わっている。この意味での民主主義は、ゲティスバーグ演説に代表されるような、政治権力の起源と目的に関する規範的な共和主義的、啓蒙主義的政治思想を意味する言葉でもある。
「民主」とは元来は「たみのあるじ」で、つまりは支配者、君主のことだった。が、ここでは「民が主である」の意で用いられている。「主義」はprincipleの翻訳語として作られた言葉である。principleは原理や原則、行動基準のことで、例えば「principle of Democracy」だと「民主主義の原則」になる。ただし、今日「主義」を辞書で引くと、主義主張としての用法の他に、「特定の制度・体制または態度」という意味も書かれている*1。従って「デモクラシーとは民主政体のことだから民主主義と訳すのはおかしい」という主張はあまり正確ではないと言える*2。
*1:広辞苑
*2:「正確」にしようとすると、「principleの訳語として主義という言葉を作ったのだから、あるprincipleに基いて作られた制度のことまで主義と呼ぶのはおかしい」というような、よく分からない主張になる気がしますが
*3:“エリート”や“権力の正統性”の論、「民主主義の人間的脆弱性」の問題、そこからまた新しい工夫が現れて…、と成熟してきた「民主主義をめぐる論」の歴史を知る入門書。ここで紹介されている著書 → マックス・ウェーバー「職業としての政治」、ミヘルス「政党の社会学」、リップマン「世論」、メリアム「政治権力:その構造と技術」、ハーバーマス「後期資本主義における正統化の諸問題」、丸山真男「現代政治の思想と行動」、辻清明「日本官僚制の研究」、他→立ち読みサイト(PDF)