炉開きのこの時期、稽古場の待合には、毎年、松尾芭蕉の句を書いた色紙が掲げられています。 炉開きや 左官老い行く 鬢(びん)の霜炉の準備をする左官たちが、町を忙しなく駆け回る「炉開き」は、芭蕉の時代には冬支度の一大風物詩だったのでしょう。ふとすれ違った左官の鬢には、知らぬ間に白いものが混じっている。そのささやかな気づきに、芭蕉は老いの影を見つけ、冬支度をする町の景色へと溶け込ませています。冬を迎えるための町の活気も、老いを帯びた左官の白髪も、決して淋しさだけではありません。どちらにも、めぐり来る季節への静かな期待が宿っているように思えます。樹々が色づき始めるこの頃、色紙を眺めるたびに、新しい感慨…