2020年3月号掲載 毎日新聞夕刊報道グループ記者(当時)/藤原章生 「お寺に入ってから、一切の比較対象から下りる、というふうになりました」 先日、長野市で再会した小山さんがぽろっとそんなことを言った。何度か挨拶したことはあるが、じっくり話すのは今回が初めてだった。 いま69歳の小山芳一さんは営業マンを経て40代で独立し、妻と二人で市内で喫茶店を開いていた。料理は妻が、コーヒーは小山さんが担当し店は繁盛していたが、妻も次第に長時間労働がきつくなり、2年前、思い切って店を閉じた。 67歳で引退した小山さんはその5年ほど前から、檀家をしている市内の長谷寺に通い、厠から廊下までをピカピカに磨く無料奉…