世界史の扉をあけると このページをアンテナに追加 RSSフィード

◆ 文化と社会の交点から見えてくる歴史 ◇

2018-08-09

近世 ヨーロッパ 【ルネサンスをどうとらえ、どう教えるか −「世界史探究」に向けて−】

◇新学習指導要領の「解説」は発表されましたが、「世界史探究」がどんな科目になるのか、まだ具体的なイメージが湧きません。

◇「解説」は、とても3単位で行えるような内容ではありません。どのような教科書が作られていくのでしょうか? 現場での単位増はどの程度可能なのでしょうか? ほんとうに「探究」の名にふさわしい科目になっていくかどうか、注視しなければなりません。


■今回は、ルネサンスを例に「考える世界史の授業」にアプローチしてみます。

■現行の「世界史B」では、ルネサンスが、芸術家・作家・思想家科学者の名と作品名を暗記させる授業になっている場合があります。

■「人文主義を教えながら、人文主義とは正反対の授業が行われている」という現実が、少なからずあるのです。

■ただ、人名と作品名の羅列から脱した授業を成立させるのは、多分、容易なことではないと思います。

■以下では、人名と作品名の羅列から脱した授業を成立させるために、ルネサンスへの視点を五つあげてみます。

■授業時間の制約もありますので、すべてを取り上げて学習することはできないでしょうが、一つだけ取り上げることは可能だと思います。また、視点を提示するだけでも、生徒たちの学習意欲を刺激することになるでしょう。

■これらの視点は、そのまま「探究」テーマになります。視点の提示とは、生徒たちとの「問いの共有」にほかなりません。

■いくつかの視点をもとに、研究・発表・討論などができれば、「探究」にふさわしい授業になるでしょう。



【ルネサンスをどうとらえるか】

1 中世との断絶か連続か

2 なぜ、古代ギリシアローマ文化が再生したのか

3 なぜ、古代ギリシア・ローマ文化とキリスト教共存できたのか

4 人体への関心はどのように高まったのか

5 ルネサンスと宗教改革はどのように関わったのか



【1〜5の授業での取り上げ方】

 今回は、要点のみ記します。


<1について>

 ◆山川や東書の教科書を注意深く読ませることが大切です。

 ◆最近出版された、池上俊一フィレンツェ』(岩波新書)でも、重要なテーマとして取り上げていますので、参考になります。


<2について>

 ◆私の場合は、ローマ文化と中世ヨーロッパの関わりから入っています。その際のキーワードは「ラテン語文化」です。

 ◆次に、ラテン語文化の背景にあるギリシア文化に移ります。ここでは、ギリシア語文化圏ビザンツ帝国)との交流、12世紀ルネサンス、新約聖書の言語などを取り上げます。


<3について>

 ◆このテーマは難しいのですが、避けては通れません。

 ◆共存・融合は、ダンテの『神曲』、モンテーニュの『エセー』などによく表れています。

 ◆新プラトン主義の役割について触れます。

 ◆ボッティチェリの「春」、ラファエロの「アテネの学堂」、ラファエロの墓などで、具体的に考えます。


<4について>

 ◆3とも関連しますが、古代ギリシアの「美についての考え方」を確認します。

 ◆ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」、ミケランジェロの「ダヴィデ像」・「最後の審判」、レオナルド・ダ・ヴィンチの解剖などを取り上げながら、裸体表現と人体の仕組み探求の両面を考えます。


<5について>

 ◆レオ10世やサンピエトロ大聖堂の改築、活版印刷術などは、わかりやすいものです。

 ◆エラスムストマス・モア、モンテーニュなど、人物を通して具体的に考えます。

 ◆プロテスタントのイコノクラスム(聖像破壊運動)とルネサンスで盛んに描かれた聖母(子)像との関係は、興味深いものです。



■詳しい説明を省いていますので、わかりにくい点が多いかと思いますが、ルネサンスの授業の参考になればと思います。

2018-07-05

近世 ヨーロッパ 【宗教改革期のイコノクラスム(聖像破壊運動)】

世界史における聖像>

■聖像をめぐる問題は、単なる宗教史の枠を超える問題です。時には歴史を動かす大問題となりましたし、人々の心性や社会生活を考えるうえでもたいへん重要です。

■世界史の授業の中でも、聖像を取り上げることは大切です。たとえば、ユダヤ教キリスト教イスラーム教、仏教ヒンドゥー教などを、聖像で比較しながら教えることは難しくありません。ひいては、それぞれの宗教の根幹に触れることにもなるでしょう。

■今回は、キリスト教を例に、聖像の授業のあり方を考えてみます。


<教科書における聖像禁止令、宗教改革>

◇高校の世界史の教科書では(資料集も同じです)、8世紀前半のビザンツ帝国の聖像禁止令を大きく取り上げています。良心的な教員は、その際のイコノクラスム(聖像破壊運動)にも触れるでしょう。

◇ただ、9世紀半ばには聖像が承認されたことを、必ず伝えなければなりません。そうでないと、ギリシア正教におけるイコンの意義がわからなくなります。

◆一方、聖像の可否は、宗教改革期の重要な争点でした。

◆しかし、不思議なことに、宗教改革期のイコノクラスムについては、教科書では(資料集でも)、ほとんど触れられません。

プロテスタント側の多くが、マリア像だけでなくキリスト像礼拝も、偶像崇拝として否定したことは、述べられません。当然、イコノクラスムは取り上げられないことになります。

◆また、キリスト像・マリア像の礼拝が偶像崇拝に当たらないとしたカトリック側の主張も、紹介されることはありません。

◆生徒たちは、カトリックとプロテスタントの違いについて、十分に理解できないままになっています。

◆日本の世界史教育では、なぜか、宗教改革期の実相は伝えられていないのです。 


<宗教改革期の実相を伝えるために>

■聖像をめぐる問題は、宗教改革期の授業のあり方を問うています。現行課程の授業でも、積極的に取り上げるべきでしょう。

■新課程では、たとえば「世界史探究」の教科書では、宗教改革の記述は改善されるでしょうか?(新課程についての議論が重要語句の削減に矮小化されてはなりません。)

■新課程の「考える世界史」に向け、教科書執筆者は、美術史の研究成果にも目配りしながら、広い視野で公正に宗教改革を記述してほしいと思います。

■教科書の宗教改革の叙述に、最低でも次の内容が盛り込まれるようになってほしいと願っています。

 \餐(キリスト像、マリア像)の可否が争点の一つになったこと。

 スイスドイツネーデルラントなどでは、プロテスタント側の運動の一環として、イコノクラスム(聖像撤去を含む)が行われたこと。

 カトリック側はトリエント公会議で聖像の重要性を確認し、それがバロック美術につながったこと。


※参考文献

 ・永田諒一『宗教改革の真実』(講談社現代新書、2004)

 ・宮下規久朗『聖と俗』(岩波書店、2018)

 ・高橋裕子『西洋絵画の歴史2』(小学館ビジュアル新書、2016)

 ・藤原えりみ『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社、2010)

 

2018-01-11

世界史 こんな「考える授業」をしてみました ─擲┣茵航海日誌・音楽で考える大西洋奴隷貿易】

★今回は、「考える授業」のための「教材の工夫」がメインになっています。

★教科書と図表を使うことで精一杯の場合もあるかと思いますが、少し「教材の工夫」をすることで、生徒たちの取り組みが違ってきます。

★今回の授業は、絵画史料と世界史上の出来事を結びつけ、文字史料と音楽で考えを深めるというかたちをとっています。

★使用した絵画・航海日誌・音楽は、次の通りです。

 〇絵画:ターナー「奴隷船」(1840)
 〇奴隷船船長ジョン・ニュートンの「航海日誌」(1751)
 〇音楽:「アメイジング・グレイス」(歌詞、楽譜、CD)

 ※申し訳ありません。本ブログでは、画像は使用していません。

★「19世紀イギリス自由主義的改革」の最初の授業で行いました。

 ※学習したばかりの大西洋三角貿易を確認しながら、奴隷貿易の禁止(1807)と奴隷制廃止(1833)に重点をおいて理解するためです。

★今回の授業は、50分は必要です。考える時間のとり方、説明のし方によっては、60分以上かかるかも知れません。その場合は、【まとめ】を次時の最初に行います。

★授業の流れを、やや詳しく紹介してみます。


【導入】

◆「19世紀のイギリスの自由主義的改革」に入ることを話してから、ターナーの絵を提示します(タイトルは伏せています)。

 ※パワーポイントなどで提示するほか、各自に配布するプリントもあればいいと思います。

教師「これは、イギリスのターナーという画家が1840年に描いた絵です。(少し見てもらってから)なかなか印象的な絵なのですが、これはどんな様子を描いた絵だと思いますか? よく見て、考えてみてください。」

 ※生徒各自が考える、周りの生徒と話し合う、グループ単位で話し合うなど、方法はいくつかあります。

 ※10分ぐらい考えてもらった後、何人かに発表してもらいます。


【展開1】

◆教師「いろんな意見が出ましたね。なかなか鋭い見方もありました。もう少し考えを深めてもらうために、ヒントを出します。まず、この船は、漁船ではありません。もう少し考えてみてください。」

 ※数分後、二つ目のヒントを出します。
 
◆教師「じゃあ、二つ目のヒントです。これは、決定的なヒントですよ。この海は、バルト海とか北海とか地中海ではなくて、大西洋です。」

 ※、再び話し合いと発表をしてもらった後、絵のタイトルを教え、ターナーが『奴隷貿易廃止史』という本を読んで衝撃受け、描いたことを説明します。

 ※既習の大西洋三角貿易の概略を確認します。

◆教師「もう一度絵に戻ります。さっき発表にもありましたが、ここに描かれているのは、人間の足ですね。魚が集まってきています。それから、こっちも見てください、ちょっとわかりにくいんですが、海面に手が出ていますね。これはどういうことなんでしょう? (間をおいて)これは、嵐のため間違って船から落ちた人ではないんです。どういう状態の人だと思いますか? 奴隷貿易ですからね。」

 ※意見を出してもらった後、航海の途中(約40日間)、死んだ奴隷は海に捨てられたこと、船長によっては弱った奴隷も捨てたことを話します。


【展開2】

◆史料(ジョン・ニュートンの航海日誌)を配布します。解説を加え、奴隷船の実態を知ってもらいます。

 ※次のような資料です。実際に配布するのは、もう少し詳しいものです。

  「5月23日木曜日 男の奴隷死す(第34番)
   5月29日水曜日 少年の奴隷、赤痢で死す(第86番)」

 ※ジョン・ニュートンの航海日誌は、『世界の教科書シリーズ34 イギリスの歴史(イギリス中学校歴史教科書)』[明石書店]から使わせていただいています。


【まとめ】

◆教師『最後に、ある歌を紹介します。みなさん、聞いたことがあると思います。とても有名な曲ですから。聞いてもらう前に、ちょっと説明しますね。歌詞を書いたのは、ジョン・ニュートンという人です。そうです。さっきの航海日誌を書いた奴隷船船長です。彼は、若い頃、奴隷を運ぶという仕事をしていました。そのことを後悔して書いた詩です。自分の今までの人生を悔いて、牧師になる修行をしていた時に書いたそうです。18世紀の後半のことです。メロディーの由来は、はっきりわかっていません。イングランド民謡か、スコットランド民謡かも知れません。その曲とは……、誰かわかりますか? ……その曲とは、「アメイジング・グレイス」です。』

 ※楽譜と歌詞(対訳)を配布します。歌詞を読んでもらった後、CDを聞きます。今回は、イギリスの歌手サラ・ブライトマンの歌で聞いてもらいました。

◆奴隷貿易の禁止(1807)を取り上げ、ウィルバーフォースが尽力したこと、「アメイジング・グレイス」も間接的に影響したことを説明します。また、奴隷制そのものの廃止はやや遅れたこと(1833)を話します。このような改革の後に、ターナーの絵が描かれたことを付け加え、授業を終了します。

◆私は行いませんでしたが、生徒たちに感想をまとめてもらうことも必要かも知れません。


☆「イギリスの自由主義的改革」の授業では、審査法廃止から入ることが多いと思います。奴隷貿易の禁止を取り上げる方は、少ないかも知れません。しかし、これはきわめて重要な改革です。また、この歴史をきちんと踏まえないと、アメリカ合衆国の19世紀も理解が不十分になります。