血盟団事件、五・一五事件(ともに昭和七年 1932)といったテロ事件やクーデタがあって、やがて二・二六事件(昭和十一年 1936)へと連なってゆく世相の移り行きを大学生として眺め、卒業後に新聞記者となったむのたけじは、後年回想している。暴力はよろしくないと、だれもが云った。が同時に、青年らの気持は解らぬでもないとする空気が、世間のいたる処に蔓延していたと。そういうひそひそ声を、たしかに聴いたと。 事情はどうあれ、誤った感想であり、ゆがんだ世相であったと、戦後のむのたけじは反省をこめて断言している。 戦時中のこと、むのたけじは朝日新聞の従軍記者としてインドネシアに駐在した。むろん建国前だからオラ…