朝、ふと思い立って、近くの山道を歩いてみることにした。本格的な登山ではない。スニーカーに軽いリュック、そして水筒ひとつ。そんな気軽さがちょうどいい。目指すは、家から歩いて30分ほどの小さな山。昔、子どものころに遠足で登った記憶がぼんやりとある。 住宅地を抜け、山の麓にたどり着くと、空気の匂いがふわりと変わる。コンクリートの街並みから、土と木の匂いへ。ふかふかとした落ち葉の道。鳥の声。風に揺れる葉の音。自然は、話しかけてくるわけでもないのに、ちゃんと「おかえり」と迎えてくれている気がする。 一歩、また一歩と足を進めるたびに、胸の奥がすっと軽くなっていく。ふだん気づかない小さな怒りや、積もり積もっ…