本書を読み終えて、私が抱いていた「犠牲者」という言葉の輪郭が、音を立てて崩れ、再構築されるのを感じた。高橋秀寿氏による本書は、単なる戦後ドイツの被害記録ではない。それは、「犠牲者」という概念が、いかにして政治的に選択・加工され、国家のアイデンティティを支える装置として機能してきたかを暴き出す、スリリングな歴史政治学の論考である。 特に巻末の結論部分において提示される視座は、極めて鋭い。戦後初期、ドイツ国民は自らを「ナチスという悪の支配に屈した被害者」として描くことで、加害責任を回避しようとした。しかし、1980年代以降、ホロコーストが世界史的な絶対悪として屹立し、いわゆる「ホロコースト・モデル…