敷居を越えた瞬間、湿地の音が遠ざかった。 W.M.U.D.入口内部 ― 敷居を越えた直後 扉が閉まる。重い鉄が噛み合う音。外の霧も、泥も、水鳥の声も、そこで一度切り離される。 完全な沈黙ではない。むしろ、中は音で満ちていた。 壁の奥を走る細い電流。古い配管の震え。どこかで回る換気扇。遠くで低く唸る発電機。床下を伝う、かすかな振動。 それらは外の湿地の音とは違っていた。自然の音ではない。人が残し、人が直し、人がまだ諦めていない音だった。 ドミノは足を止めず、ブライアンの後ろを歩いた。 中から漏れていた匂いは、扉の内側でさらに濃くなる。古い油。焼けた配線。埃を吸った紙。湿った布。薄い金属の熱。 入…