兄の禅師《ぜんじ》だけは稀《まれ》に 山から京へ出た時に訪《たず》ねて来るが、 その人も昔風な人で、同じ僧といっても生活する能力が全然ない、 脱俗したとほめて言えば言えるような男であったから、 庭の雑草を払わせればきれいになるものとも気がつかない。 浅茅《あさじ》は庭の表も見えぬほど茂って、 蓬《よもぎ》は軒の高さに達するほど、 葎《むぐら》は西門、東門を閉じてしまったというと 用心がよくなったようにも聞こえるが、 くずれた土塀《どべい》は牛や馬が踏みならしてしまい、 春夏には無礼な牧童が放牧をしに来た。 八月に野分《のわき》の風が強かった年以来廊などは倒れたままになり、 下屋の板葺《いたぶ》…