改札口を出て階段を降り、この季節だと駅前街路樹のヤマボウシの樹が満開なのを眼にすると、あー帰ってきた、これで安心だ、という気がする。この「安心」ってなんだろうかと考える。 ある種の疲労、云い換えれば精神の弱まりが、そう感じさせるのではないだろうか。 要介護3に格上げされるかというころの父には、ソファからベッドへの移動とか、トイレへの移動のさいには、差出させた両手を曳いて、私がイチニッ、イチニッと声を掛けながら後ずさりして、なるべく室内を歩かせるように努めた。機嫌よく歩く日も剛情にむずかる日もあった。 自前で歩けるのは室内だけで、一歩でも屋外へ出るとなれば、すべて車椅子のご厄介になった。 通院か…