一通の訃報をFAXで受け取った。仕事でお世話になっている会社の会長の訃報だった。最近、入院先から施設に移られたと聞いていた。 かれこれ35年ほど前。夫が仕事を始めたばかりの頃、縁あって仕事をお引き受けした。それ以来、ずっと信頼してくださっていた。 会長は長身で威厳があり、お会いするたびに私は緊張した。大きなデスクに向かい、静かに帳簿をつけておられる姿が印象的だった。 「スーパーに行ったことがない」と話す、昭和一桁世代。麻雀が唯一の趣味で、その日はいつも嬉しそうだった。ご自分のスタイルを崩すことなく、凛としていて、でもいつも笑顔で優しかった。 「あなただから、見せてあげるね」と、万年筆で丁寧に書…