人はなぜ、人の“本性”に惹かれ、また恐れるのでしょうか。 表面上はどこにでもいるような普通の人物が、ある出来事をきっかけにしてまったく異なる顔を見せ始める。 その瞬間に、私たちは恐怖や戸惑いを感じつつも、目が離せなくなります。 伊岡先生の小説には、まさにそうした「日常に潜む異常性」「静かな狂気」を描く力があります。 これまでに読んだ『代償』『悪寒』『痣』などの作品でも、人間の心の奥底に潜む複雑な感情が静かに、しかし確実に読者の心を揺さぶってきました。 そして今回の『本性』。 読み始めた当初は、ごく普通の男女の恋愛小説か、あるいは刑事ドラマ的な展開を予感させる作品かと思っていたのですが、読み進め…