茶室の障子を開けると、広縁の脇に水屋がある。御簾を模したロールカーテンを上げると、そこに広がるのは枯山水の庭。義母がこだわって整えた自慢の風景だった。 茶花に使う、額紫陽花、椿、侘助、秋明菊──季節ごとに静かに咲く花たちは、彩を添えていた。 あるとき、嫁が言った。「旅館に泊まっているみたい」その言葉が、少し嬉しかった。 けれど、義両親が要介護になってからというもの、庭の手入れは行き届かなくなった。頼んでいた植木屋さんも高齢で廃業されてしまった。 私は、義母に恨まれるのを承知で、立派な松の木の成長を止めた。そして、将来自分の手が届かなくなるような高木も、思い切って伐った。風情はすっかり薄れてしま…