――過去の音が、そっと鳴り出す。誰かの手に触れられたことで。それは、記録されたまま眠っていた物語。あるいは、語られなかったまま消えた声。 雨が降っていた。 少女には何処にも行く当てはなかった。 だから声も無く助けを求めた、その小さな手に応えた男が居た。 男も彼女と似たような境遇だった。 どうしたらこの世界で生きていけるのだろうと途方に暮れていた。 ただ、男にはもしかしたらとの想いがあった。 「あの山を越えた先になら」と。 二人で山を登っていった。 寄木の様に重なりながら歩く二人。 途中、休憩する際に男は少女に歌を披露した。 その歌は決して上手くは無かった。 音程なんてひどいもので、リズムもかな…