春まだ浅い頃、由緒ある老舗和菓子屋 「花月堂」の店先には、今年も美しい桜餅が並んでいた。 八十路を越えた店主の一郎は、 ショーケースに並んだ桜餅を眺めながら、 遠い昔の記憶を辿っていた。 一郎がまだ幼かった頃、花月堂は彼の祖父が営んでいた。 当時、花月堂の桜餅は春の訪れを告げるとして、 地域の人々に大変愛されていた。 一郎は幼いながらも、祖父が一つ一つ丁寧に 桜餅を作る姿を見るのが好きだった。 特に印象に残っているのは、祖父が「この桜餅は、ただのお菓子じゃない。春を待ちわびる人々の心を癒し、新しい季節への希望を与えるんだ」と、優しく語ってくれたことだ。 しかし、戦争が始まり、店の存続も危ぶまれ…