節1:影楼館への招待状 乾陽太がその封筒を持ち込んできたのは、まだ冬の冷気が街を包んでいる三月の初旬だった。午前中からうっすらとした曇り空が続いていて、昼を過ぎても太陽は顔を出さず、キャンパス全体に鈍色の光が滲んでいた。 その日、探偵小説研究会——通称「探研」の部室には七人全員が揃っていた。卒業論文の提出を終え、卒業式までの気怠い空白期間。これまで毎週のように顔を合わせてきた仲間たちも、春からは別々の場所へ散っていく。だからこそ、この時間を名残惜しむように、それぞれが思い思いに過ごしていた。 古びたソファに寝転ぶ者、持ち寄った推理小説を読み耽る者、窓際で外をぼんやりと眺める者。その空気を、陽太…