一言でいえば、大人も子どもも救われておらず、大人が救われていないから、子どもが救われなかった話だと思った。 主人公あんは、日常的に彼女を虐待する母に命じられるまま売春をし、その客の誘いがきっかけで、薬物依存症になった、というわかりやすい不幸をのぞけば、どこにでもいる、ごくふつうの女の子である。 母親は、あんのことを、「ママ」、と呼ぶ。 この呼び方は、「親子役割逆転」、という虐待の本質を現している。 「児童虐待」は、英語のchild abuseの訳語であって、abuseは、ab-useであることから、原義として、「子どもの正しくない使い方」、という意味をもつ。 親も子も、その役割以前に人であり、…