つい数秒前まで頭の中にあった言葉が、まるで煙のように消えてしまうことがある。何かを取りに立ち上がったのに、途中で他のことに気を取られ、目的をすっかり忘れてしまう。誰かに話しかけようとしたのに、名前がどうしても出てこない。ふとした日常のなかで、こうした「忘れる瞬間」に出くわすことが増えてきた。 年齢のせいだろうか。そう思う一方で、若いころから同じようなことはあったようにも思う。ただ、その頻度と質が、少しずつ変わってきている。昔は「うっかりしてた」で済んだものが、今では「これって大丈夫かな」と心のどこかで不安になる。記憶の引き出しが、かたく閉じてしまったような感覚。手がかりをつかもうとしても、指先…