草藉(し)きて臥すわが脈は方(ほう)十里寝(い)ねたる森の中心に搏つ 森鴎外 『鴎外全集』 我が足はかくこそ立てれ重心のあらむかぎりを私しつつ 森鴎外 同上 鴎外はドイツに医学留学し、日本の文化と異なる近代合理文明を知り、個人としての自我の確立を目指す。その後、社会において他者との軋轢も体験するなどして、新たな自我は葛藤することになる。掲載した二首の短歌では、「私」を中心に据えた活力に富む自画像が歌い上げられている。求心的に自己がさぐられていて、国家のエリートとしての鴎外の自負がうかがえる。 あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり 斎藤茂吉 『あらたま』 茂吉の自我はそれだけが純…