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第七回翻訳ミステリー大賞決定!

■北東京読書会 10月1日 残席僅少■
■南東京読書会 10月10日 開催!■
■名古屋読書会 10月22日 開催!■
■西東京読書会 10月29日 開催!■
■徳島読書会 11月12日 開催!■
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■各地読書会カレンダー■

※イベントカレンダーに掲載ご希望の方は事務局までメールでお知らせください。
翻訳ミステリー・イベント・カレンダー
イベント内容(案内記事リンク/=関連書アマゾン)
22 【2017年】 第八回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション(大田区産業プラザPiO)
12 10 訳者が語る現代ドイツ文学 シーラッハを中心に 講師:酒寄進一(朝日カルチャーセンター新宿教室)*全2回、第2回は12/17(土)
11 NEW! 小説と映画で『インフェルノ』を二度楽しむ 越前敏弥(朝日カルチャーセンター新宿教室)
10 22 NEW! 小説と映画で『インフェルノ』を二度楽しむ 越前敏弥(朝日カルチャーセンター中之島教室)
10 21 NEW! 「もっと海外文学を!〈BOOKMARK〉について語ろう!」金原瑞人×三辺律子×越前敏弥(紀伊國屋グランフロント大阪店)
10 20 代官山文学ナイト:古屋美登里トークショー『堆塵館』(E・ケアリー)刊行記念 ゲスト:深緑野分(蔦屋書店1号館2階 イベントスペース) 【当サイト掲載記事】
10 15 第20回翻訳百景ミニイベント「ファンタジーを心ゆくまで語りつくそう!」金原瑞人×酒寄進一×三辺律子(東京ウィメンズプラザ大ホール)
10 14 『堆塵館』(エドワード・ケアリー/古屋美登里訳)刊行記念トークイベント 「ケアリーのダークで愛しい不思議な世界」古屋美登里+豊崎由美(紀伊國屋書店新宿本店8階イベントスペース) 【当サイト掲載記事】


2016-09-30

第13回西東京読書会のお知らせ

 

こんにちは。西東京読書会では、新刊翻訳ミステリーをテーマに掲げ、なかでも新人作家や本邦初紹介の作家に注目しています。

今回はトニイ・ヒラーマン賞受賞作『バッド・カントリー』(C・B・マッケンジー著/熊谷千寿訳)を課題書に選びました。

 

 

アリゾナ州のアメリカ先住民居留地。殺人事件が連続して起こり、先住民の血を引く元ロデオのスターであった私立探偵ロデオ・グレイス・ガーネットは、殺された少年の事件を親族の依頼で再調査する。老犬をともない聞き込みを進めるうちに別れた恋人がからんできたり、新たな殺人事件が発生したりと、ロデオは混乱に巻きこまれていく。やがて真相にたどりつくが――

 

400ページを超えるボリュームですが、乾いた文体がとても魅力的な本作を一緒に楽しみませんか。

当会は読書会初参加の方も、翻訳ミステリーになじみのない方も、リピーターの方もどなたさまも大歓迎。どうぞお気軽にご参加ください。

 

日時:10月29日(土)14:30〜16:40 (受付14:15〜)

場所:武蔵境駅(JR中央線・西武多摩川線)すぐそば

 *ご参加のみなさまにはメールにて詳しい場所をお知らせします。

課題図書:『バッド・カントリー』C・B・マッケンジー/熊谷千寿訳(ハヤカワ文庫)

 *各自ご用意の上、当日までにお読みください

定員:15名程度

参加費:200円(会場費、諸経費込み。お茶菓子つき)

 *当日、受付でお支払いください

 

終了後は場所を移して懇親会を行ないます(会費別途)。

懇親会への参加もお待ちしています。

 

申込方法

nishitokyo.dokusho@gmail.com までメールでお申し込みください。

◎件名は「10月29日読書会」でお願いします。

◎本文に「お名前」、「ご連絡先電話番号」、「懇親会への参加の有無」をご記入ください。

◎先着順で受け付け、定員に達したところでいったん締めきらせていただきます。その後の申し込みは、キャンセル待ちとなります。

 

西東京翻訳ミステリー読書会幹事 小林さゆり(ツイッターアカウント@pino_pipi_candy) 森嶋マリ

後援 翻訳ミステリー大賞シンジケート

 

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2016-09-29

 祝!☆第30回☆『高い砦』(執筆者:加藤篁・畠山志津佳)

――正義と信念のために戦う、古き良き時代の傑作冒険小説

全国20カ所以上で開催されている翻訳ミステリー読書会。その主だったメンバーのなかでも特にミステリーの知識が浅い2人が、杉江松恋著『読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100』をテキストに、イチからミステリーを学びます。


「ああ、フーダニットね。もちろん知ってるよ、ブッダの弟子でしょ。手塚治虫のマンガで読んだもん」(名古屋読書会・加藤篁

「後期クイーン問題? やっぱフレディの死は大きいよね。マジ泣いちゃったなー。We will rock youuuu !!!」(札幌読書会・畠山志津佳


今さら聞けないあんなこと、知ってたつもりのこんなこと。ミステリーの奥深さと魅力を探求する旅にいざ出発!


加藤:日ごとに秋が色濃くなってきた9月の終わり。地元では祭シーズン本番を間近に控え、僕も何かと慌ただしく過ごしております。

 9月もいろいろありましたねえ。リオのパラリンピックに、広島東洋カープの25年ぶりのリーグ優勝。そして台風の大挙襲来。さらには「豊洲地下空洞の謎を追え!」ってカッスラーの新作かよ! みたいなニュースがワイドショーを賑わせる今日この頃。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。司会のロイ・ジェームスです。


 さて、そんなわけで「必読!ミステリー塾」も今回で30回目。杉江松恋著『海外ミステリー マストリード100』をテキストに、時代を追って翻訳ミステリーとその歴史を学んできましたが、今回のお題はデズモンド・バグリイ『高い砦』。1965年の作品です。

 ちなみに、1965年は昭和でいえば40年。前年に東京オリンピックが開催され、東名高速道路、東海道新幹線が開通したばかり。日本はまさに高度経済成長ド真ん中、そして世界は東西冷戦ド真ん中と言う時代。


 そんな時代に書かれた『高い砦』はこんな話。


高い砦 (ハヤカワ文庫NV)

高い砦 (ハヤカワ文庫NV)


主人公オハラは南米の小さな航空会社のしがないパイロット。ある日、彼が操縦するプロペラ機はハイジャックに遭い、アンデス山中に不時着してしまう。機体は損傷し、犯人を含む数名が死亡。生き残ったオハラと乗客の9名は、寒さと高山病に悩まされながら、下山を始めるが、何故かそこに現地コルディヤラ国軍が立ち塞がる。乗客のなかの現政権の政敵が含まれていたのだ。背後には装備なしで越えるのは不可能な山々。そして、戦うことを決意した彼らが選んだ方法とは……。


 デズモンド・バグリイは1923年生まれのイギリス人作家。第二次大戦中は飛行機工場で働き、戦後はアフリカ各地を渡り歩いたという謎の経歴の持ち主だそうです。その後、ラジオや新聞・雑誌の編集の仕事のほか、映画や演劇の評論、映画のシナリオなどを手がけ、1963年に『ゴールデン・キール』で作家デビュー。1965年に発表された第2作が『高い砦』です。本作でベストセラー作家となったバグリイは、以後ほぼ年1作のペースで作品を発表し続け、1983年に亡くなるまでに16の長編を残し、その全てが邦訳されました。


 本作『高い砦』は冒険小説ではあるけれど、冒険野郎による冒険譚でも宝探しでもなく、純粋に巻き込まれ型のサバイバル。

 一行を載せたオンボロプロペラ機が、南米アンデス山脈の標高約5,000メートルの山中に不時着するところから、彼らの生き残りを賭けた戦いが始まるわけですが、標高5,000メートルがどんな世界なのかを想像できる人はあまりいないのではないでしょうか。


 僕らみたいな緩い山好きにとって、非日常というか別世界を感じられるのが、標高2,500メートルくらい。

 地域にもよりますが、日本の本州では森林限界をむかえるのがこの辺りで、景色がガラっと変わり、下界の人工音も届かなくなり、不思議な静けさに包まれた世界になるのですね。耐性のない人に高山病の症状が現れるのもこの辺り。富士山でいえば6合目。


 しかし、標高5,000メートルともなると、非日常を楽しむどころではないのです。地表と比べて気温はマイナス32度、酸素は53%、気圧はマイナス470hPaなんですって。普通の人間なら、この時点で相当の体調不良を感じ、人によっては頭が割れるように痛んだり、立ち上がることすら出来ないかもしれません。


 そんな状況で武装した相手と戦わなくてはならないとしたら……ね、これはもう読むしかないでしょ!


畠山:人間、いつなんどき命がけの災厄に見舞われるかわからない。搭乗予定の飛行機が突然欠航になり、つきましては代替輸送で小さな飛行機を用意しますのでお急ぎの方はそちらへどうぞと言われて「はい!」と手を挙げたが最後、その飛行機は飛ぶ前から壊れてるようなシロモノだわ、機長はこっそり酒飲んでるわ、挙句の果てにハイジャック、山中に不時着、暖は取れない食べ物はない、ダメ押しのように武装した集団に狙われる……マズイ、このままではマズイ。我らに一体何ができるのか。

「この山に詳しい人!」「はい!」

「軍隊経験者!」「はい!」「はい!」

「医療の知識のある人!」「はい!」

「現地の言葉がわかる人!」「はい!」はい!」「はい!」

「ここにあるもので武器をつくれる人!」「はい!」「はい!」

「弓の腕がいい人!」「はいッ!」

 んまーーっなんて頼もしい!……って、君らアベンジャーズかよ!!

 絶望的な状況の中で課された使命を果たすために全力を尽くす人たちの姿は文句なくカッコいいし、手に汗握って楽しみました。

 芸は身を助けると言いますがまさにその通り。ドンパチには無縁な歴史学者や女性が意外な活躍を見せるところが面白いのです。世の中には理系、文系、体育会系がまんべんなく必要なのだということがよくわかる。

 しかし中にはアベンジャーズ入りできない人もいるわけで、文句ばかりいって酒に溺れるデキないアメリカ人ピーボディには親近感を覚えてしまいました。昔ならこういうキャラは絶対イライラしたのに、歳を取ると優しくなれるものです。


 正直に言うと悪役たちはやや物足りない感じがしましたね。なぜそこでのんびりしているのかとツッコみたくなることがしばしばありました。それが南米流と言ってしまえばそれまでなのかもしれないけど。ただもう一つの強敵である自然の猛威(特に冬山)の描写が圧巻なので、人間どもは少し間が抜けてるくらいでいいのかも。


 加藤さん、この本は翻訳ミステリー登山部の課題にしないの?


加藤:実は昨年の富士山頂読書会の課題本候補で最後まで残ったのは、ボブ・ラングレー『北壁の死闘』と『高い砦』でした。

 山岳冒険小説の名作として名高いこの2作、実は意外なほどテイストが違うのです。

『北壁の死闘』は登場人物が登山のエキスパートたちであり、困難なミッション(真冬のアイガー北壁登攀!)を与えられた彼らが、命を賭して壮絶な任務にあたる話。

 それに対し、本作『高い砦』は、女性2名を含む素人たちが極限の状況下で、手に入るものと知恵だけを武器に、自らの信念と自らの正義のために戦う話なのです。

 冒険小説にも様々なタイプがありますが、戦争ものや特殊な訓練を受けたプロフェッショナルたちが活躍する男臭い話にはイマイチ入り込めないという向きには『高い砦』はお勧めかも知れません。


 また、本作は東西冷戦真っ只中に書かれており、主人公らアメリカ人やイギリス人による、共産主義者との「正義の戦い」として描かれているのが、今読むと不思議な感じです。

 思えば、僕らは「イデオロギー」って言葉が日常生活に転がってた世界で育ったのだなーと。

 

 それにつけても(おやつはカール)、杉江松恋著『海外ミステリー マストリード100』は名作ミステリーがオリジナルの発表年代順に紹介されているわけですが、これまでハメット、チャンドラー、ジム・トンプソン、マクリーンと、あまりといえばあまりに分かりやすい数作しか既読が無かった僕ですが、このあたりから一気に既読率が(一時的にですが)上がります。

 ああ、古き良きハヤカワの時代(<いろいろ語弊があるぞ)。

 そして、次回はいよいよディック・フランシス『大穴』の登場ですわ。日本を代表するキクチスト畠山さんがどんなテンションで臨んでくるのか、いまから楽しみというか怖いというか。


畠山:登山愛好家の加藤さんからすると「山岳小説かくあるべし」というこだわりがあるかもしれませんが、私のように山とかスキーとかマラソンとかなぜわざわざ時間と金を使って苦しい思いをするのか理解できんという完全インドア派にとっては「登る」「飢える」「凍る」の三拍子揃えばそれは立派な山岳小説です。一物三価ってこういうこと?

 凍傷になった手足をこすって血行が戻ってくると強烈な痛みに襲われてまた地獄……なんてシーンは北国育ちの人間なら字面を見ただけで指先が痛痒くなってきちゃう。


 そんな困難に立ち向かう彼らに贈られる「血が男の中に流れている限り、不可能ということはないんだよ」というキメッキメの名台詞は冒険小説好きなら鼻血噴いて倒れちゃいますね。昨今は「男」の一文字が要らなくなってるとは思いますが。(伊調馨選手、国民栄誉賞万歳!)


 時代を追って翻訳ミステリーを読む、このミステリー塾。ついこの前までは第二次世界大戦が背景になっている作品が多くありました。『ナヴァロンの要塞』のようにガチで戦場を描いているものからサラッと「沖縄から帰ってきた」という一文が主人公の陰影を表しているようなものまでバラエティに富んでいましたね。

 この『高い砦』の主人公ティム・オハラは朝鮮戦争帰りのパイロットで、捕虜になった経験から心に傷を負っている人物。時代背景は朝鮮戦争後、東西冷戦時代へと進みました。そして加藤さんが言っていた「共産主義者」という言葉が「よくわかんないけど問答無用で悪い人っぽい」と思わせる空気感など、海外小説を時代を追って読むということは世界情勢の歴史を学ぶことでもあるんですね。当たり前のことかもしれないけど今までこういう読み方をしたことがなかったのでとても新鮮です。


 興を削ぐので何がとは申しませんが、もう一人の軍隊経験者フォレスターなんかも、おお! こういう人物が出てくる時代に移ってきたのかとニヤッとしますよ、きっと。

 ちなみに私はオハラよりフォレスター、そして万屋(!)ローデが好きだなぁ。この二人には私の腐アンテナがビビン! と…あ、アームストロングとウイリスの学者コンビにもちょっと変な兆候が…とかなんとかそんなこと誰も一言も(強制終了)


 で、何? 来月の課題は『大穴』なの? (←ホントは何か月も前からドキドキしてた人)

 ちゃんと皆さんに“良さ”が伝わるようにアタシがんばる。フランシス信者&キクチストの陰の首領KG山TK朗(“卵かけごはん”に空目)氏に及第点をいただくのが目標♪




■勧進元・杉江松恋からひとこと

『マストリード』を発表年順にしてよかったことの一つに、その時々の流行がラインナップに反映されるということがあります。戦争冒険小説であるアリステア・マクリーン、本質的にはスリラーですが主人公像に冒険小説の要素を色濃く持ったディック・フランシスなど、この時代の主流が何であったかがよくわかります。デズモンド・バグリイ『高い砦』は、後に北上次郎氏が〈活劇小説〉として定義することになる冒険小説の典型として、100冊にはどうしても入れたかった作品でした。極端に切り詰めた冒頭の状況説明、そして読者を休ませず次々に事態を変化させていく書きぶりなど、後続作家に大きな影響を与えた作品だと思います。その意味では現在、デビュー作『ゴールデン・キール』『マッキントッシュの男』『スノー・タイガー』といった他の作品が品切状態になっているのは非常にもったいない。バグリイに学ぶことはまだまだあると思うのですが。

 さて次回はディック・フランシス『大穴』ですね。楽しみにしております。


大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))

大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))


加藤 篁(かとう たかむら)

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愛知県豊橋市在住、ハードボイルドと歴史小説を愛する会社員。手筒花火がライフワークで、近頃ランニングにハマり読書時間は減る一方。津軽海峡を越えたことはまだない。 twitterアカウントは @tkmr_kato

畠山志津佳(はたけやま しづか)

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札幌読書会の世話人。生まれも育ちも北海道。経験した最低気温は-27℃(くらい)。D・フランシス愛はもはや信仰に近く、漢字2文字で萌えられるのが特技(!?) twitterアカウントは @shizuka_lat43N

●「必読!ミステリー塾」バックナンバーはこちら


南海の迷路 (ハヤカワ文庫NV)

南海の迷路 (ハヤカワ文庫NV)


北壁の死闘 (創元ノヴェルズ)

北壁の死闘 (創元ノヴェルズ)

ナヴァロンの要塞 (ハヤカワ文庫 NV 131)

ナヴァロンの要塞 (ハヤカワ文庫 NV 131)

大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))

大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))

2016-09-28

新・黄金の七人〜マクロイ 『ささやく真実』他(執筆者:ストラングル・成田)

 

黄金の七人  [HDニューマスター版] Blu-ray

黄金の七人 [HDニューマスター版] Blu-ray

 60年代半ばに『黄金の七人』というイタリア映画があった。綿密な計画の下、名うての大泥棒である七人の男女がチームで黄金を狙う犯罪コメディ。60年代的にお洒落で華やかな雰囲気をみなぎらせていたが、そのシャバダバ音楽とも相まって、後年、再評価されたのも理由なきことではない。

 今回は、クラシックミステリ的にビッグネームが揃った。名付けて新・黄金の七人。一部妄想を交えつつ個性豊かな各メンバーを紹介とともに、彼らの新着のたくらみにご案内する。

 

 ニューヨーク出身、ソルボンヌ大学卒業。国際派、知性派の眼鏡美女(眼鏡は妄想)。心理学に造型が深く、幻視能力ももつという。

 ヘレン・マクロイ 『ささやく真実』(1941) 。

 マクロイ作品の発掘が急ピッチで進んでいる。『二人のウィリング』に続き、今年2冊目の本書は、ベイジル・ウィリング博士シリーズの第3作目。ごく限られた登場人物の中で殺人事件の犯人を捜すストレートな謎解き物だ。といっても、マクロイらしさは、この初期作にも刻印されている。

 悪趣味ないたずらで騒動をもたらす美女クローディアは、強力な自白作用をもつ新薬を入手。彼女は自宅で催したパーティで飲み物に新薬を混入し、その夜を大暴露大会に代えてしまうが、悪ふざけが過ぎたのか彼女は何者かに殺されてしまう……。

 『死の舞踏』では、新型のダイエット薬というのが出てきたが、本書でのフックの役割を果たすのは、自白薬。スコポラミンという自白薬は現存するが、本書では意識混濁を招くという欠点を克服した新薬という設定だ。クローディアを取り巻く元夫婦、会社経営者ら一筋縄でいかない人間関係の中に「真実の血清」を投げ込んだときに、何が起きるかという一種の思考実験のようでもある。というように、本書の表のモチーフは、「真実」なのだが、ある医学的知識を事件の裏地として使っているのも、マクロイらしい。例によって文学趣味も豊富で視野が広く、謎解きの鍵は、大胆すぎるのも含めて、ちりばめられている。欲をいえば、「真実」という表のモチーフと謎解きが呼応しあうようなふくらみが欲しかったところだが、それは『暗い鏡の中に』『逃げる幻』といった後年の作品を待たねばならなかったというところか。

 ウィリング博士の調査は、例によって俗物たちの心理に切り込んでいくが、それは殺されたクローディアの過去の探索にも及び、彼女の悪意の動機は物悲しい。後年の作のアイデアを思わせる一節もあるので、この面からも見逃せない作。

 それにしても、海辺のコテイジから水上飛行機でニューヨークに出勤するウィリング博士、かっこ良すぎるぞ。

 

 放浪癖があるのか世界各地を転々とし、職業も次々と変えるエキセントリックな人物。周囲を驚かす創意と手練のテクニックには定評がある。

 レオ・ブルース 『ハイキャッスル屋敷の死』(58) 。

 レオ・ブルースも、関係者の尽力で刊行が進んでいる一人。英国本格ミステリを語る上で欠かせない作家の一人だろう。本書は、歴史教師キャロラス・ディーン物の第5作。邦訳のあるものの中では、『ミンコット荘に死す』(1956)と『ジャックは絞首台に!』(1960)の間の作に当たる。『ささやく真実』は、絵解きの場面での参加者は数名だったが、こちらの場面では、使用人も含めて無慮20名を超える人物が集う。解決編が40頁に及び、ディーンが「13の条件」を提示して犯人を指摘するという大謎解き絵巻で、発想の質においてクリスティに近いとされるブルースだが、本作はクイーン作品すら思わせる。

 ディーンはゴリンジャー校長直々に捜査の要請を受ける。貴族のロード・ペンジが謎の脅迫者に狙われているというのだ。数日後、ペンジの住むハイキャッスル屋敷で主人のオーヴァーを着て森を歩いていた秘書が射殺される。不承不承、現地の屋敷に赴いたディーンが見出したものは。

 これといった捜査手段をもたず、現地の警察からも疎んじられているディーンは、屋敷の中をインタビューして歩くことになるが、これが非常に民主的というか、ペンジの家族のみならず、屋敷の従僕や家政婦らに分け隔てなく接するし、こうした使用人のキャラクターもくっきり書き分けられている。家族らが皆感じがよく、これといった悪意のありそうな人物も見当たらないのが、かえって定石破りだ。 

 本書に特徴的なのは、全体の半ばを過ぎた辺りで、ディーンが犯人の正体を突き止めたと公言してしまう点で、読者としては、もどかしくてしかたがない。これが単に読者をじらすテクニックとして使われているのではなく、謎解きの構造や物語の組立ての面からも、意味ある遅延になっているところが本書の大きな面目だ。他のシリーズ作に比べ、ユーモアは控え目だが、その理由も、真相解明で明らかにされるディーンの苦悩によって納得させられる。

 解決は、犯人を指し示す「13の条件」に決定打が欠けている点がやや惜しいが、解決は、意外性を原理的に追求したこの作者らしいものだ。混じり気なし、すべてが結末に向けて奉仕していく純度の高い本格ミステリであり、その厚みのある謎解きはファンを堪能させるだろう。

 

 一見英国紳士だが、暗黒街のあれやこれに精通。交友範囲が広い座談の名手で、ハリウッドでは巨大ゴリラも巧みに扱う。

 エドガー・ウォーレス『J・G・リーダー氏の心』(1925) 。

「ウォーレス風」というのが一つの代名詞になっている20世紀前半の犯罪スリラーの巨匠で、最近では、

『淑女怪盗ジェーンの冒険』『真紅の輪』が紹介されているが、本作は、ウォーレスの作品集の中では最も高く評価されており、ミステリ短編集の殿堂『クイーンの定員』にも選出されている。8編収録。

 主人公J・G・リーダー氏のキャラクターが実にユニーク。馬面に白髪交じりの頬髯、飛び出した耳をもつ貧相な男。叱責されれば泣き出してしまいそうな物腰。山高帽に黒いフロックコート、いつもずり落ちた金縁の眼鏡。常に雨傘を持ち歩いているが使用しているのを見た人はいない。52歳独身。とまあ、ブラウン神父を思わせなくもないリーダー氏だが、実は、鋼鉄の刃を忍ばせている彼の傘同様、銀行強盗や贋金づくりに対するのっぴきならない知識と推理力を発揮する探偵なのだ。

 本書は、フリーランサーだったリーダー氏が公訴局長事務所の役人として勤務することになってからの一連の事件を扱っている。劈頭を飾る「詩的な警官」に、まず驚かされる。単純な銀行強盗殺人と思える事件だったが、リーダー氏は、一見無関係で些細な事実を関係づけて、まったく意想外の構図を明らかにする。「宝さがし」も同様で、複線で進行する話がいつの間にか交わり、ブラウン神父譚のような魔術的な展開がある。さらに、「大理石泥棒」は、大理石の塊を集める女という奇妙な挿話が、結末で犯人の凶悪すぎるたくらみに結びつく秀作だ。このままいけば、傑作パズラー短編集になったと思われるが、さすがに謎解きのテンションは持続せず、それはそれで面白いものの、リーダー氏がヒーローとして立ち回りをみせる短編が多くなる。

 リーダー氏は自ら「犯罪者の心を持っている」といい、その経歴にもほの暗い影があるのもシリーズの特徴の一つ。「緑の毒ヘビ」事件では、温和な毒ヘビと称される氏の冷酷な一面も明らかにされる。

 しかし、そんなリーダー氏にも春の訪れか、「大理石泥棒」事件で、知り合った若い娘マーガレットとの交際が始まる。(訳者あとがきに「頑張れ、じいさん!」とあるが、52歳でじいさん呼ばわりはお気の毒) 淡いロマンスの行方も作品集を通じてのお楽しみだ。

 

 田園生活になじんだ温顔なご婦人で編み物が似合いそうだが、実はあらゆる業界事情に通暁した自由な女性。中年の色気みたいなものが感じられる(乱歩談)。

 マージェリー・アリンガム 『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿II』

 優雅な社交家にして名うての素人探偵アルバート・キャンピオン氏の『窓辺の老人』に続く事件簿。30年代から50年代の短編が時代順に並べられている。

 相変わらず、キャンピオン氏は社交家ぶりを発揮し、広い交友関係から情報を拾い集め、友人のオーツ警視らを驚かせる推理を連発する。

 キャンピオン物短編の魅力は、tale(お話) の魅力だろう。そこでは、帽子のミニチュアをみせるだけでレストランの料金が無料になってしまったり(「魔法の帽子」)、火星からやってきた男たちを見たという老人が現れたり(「奇人横丁の怪事件」)。屋敷が消える(「幻の屋敷」)、監視された部屋での殺人(「見えないドア」)といった不可能犯罪物に分類される短編も、そうした不思議なtaleの魅力を思い起こさせる。市井の奇譚を拾い上げ、盲点を突く解決を示す作者は、世情に長け、人の情に通じている。この温雅で澄んだ作品世界の魅力がつまった短編集。

 ここに挙げた短編はもちろん、骨太の謎解き小説「ある朝、絞首台に」、個性的な事件関係者の視点から綴られた面子めんつの問題」、犬が年に一回話せる奇跡を描いたクリスマス・ストーリー「聖夜の言葉」など、一編一編に工夫も怠りない。

 エッセイ「年老いてきた探偵をどうすべきか」で、キャンピオン氏が作者の手を握っても「もうわたしの胸はきゅんとうずくことはなかった」というくだりには、クスっとしてしまう。やはり、女性ミステリ作家は、作中の探偵と恋に落ちる傾向があるのかな。予期せぬ『III』も予定されているということで、こちらも愉しみ。

 

絞首人

絞首人

 四人の子育てに奮闘中の眼鏡ママ(眼鏡は本当)だが、舌鋒鋭く、人の心を見抜く達人。ずっとお城で暮らしているという噂あり。

 シャーリイ・ジャクスン『絞首人』(1951) 。

どうやら本格的なシャーリイ・ジャクスンのリバイバルが到来したらしい。この1年で、初邦訳作が、短編集『なんでもない一日』『日時計』に続き、3冊目だ。訳者あとがきによれば、この小説は、現実に起きた女子学生の失踪事件をモデルにしているという。1946年ヴァーモント州の女子大(当時)の学生ポーラ・ジーン・ウェルデン18歳が森にハイキングに出かけたままふっつり消息を絶つという事件が起き、生死不明のまま未解決事件になっている。この事件に触発されて書かれたのが、ヒラリー・ウォー『失踪当時の服装は』(1952)であり、もう一つが、この『絞首人』ということだ。といっても、本書は捜査小説ではなく、幻想的要素も持ったストレートノベルに近い。ウォーの作品が、捜査という外側から真実に近づこうとしたのに対し、本書は失踪少女の内面に切り込んでいった小説といえようか。『なんでもない一日』にも、「行方不明の少女」という事件を淡々と扱った失踪少女の短編があったのも想い起こされる。

 中流家庭に育った17歳のナタリーは、それまで育った家を離れ、こじんまりした女子大に進学する。豊かすぎる感受性ゆえ、周囲の学生ともなじめず、プライベートは独り、寮の自室に引きこもっている。そんなある日、彼女に転機らしきものが訪れるが、事態は悪い方へと転がっていく。

 ナタリーが育った家庭は中流の家庭だが、ナタリーの父は文芸評論家で、ナタリーは文章修行をさせられている。母は、生活能力のない父に、結婚を悔いている。両親は、ナタリーにとって、煩わしい桎梏でもあるが、情愛を注いでくれる唯一の存在でもある。そのアンビバレンツを生きなければならないナタリーは、多かれ少なかれ、我々の似姿でもある。その上に、ナタリーは文芸修行により人一倍感受性が鋭く、幻聴も度々起きる。人と打ち解けることができない。自分宛てに手紙を書く。ときに、自らの才能に酔う野心家であり、ときに絶望の谷に落ちる。常に死ぬことを考えている。本書は、そんな多感な少女の内面の振幅を、周囲の人々への怜悧な観察を交え、余すところなく描いている。その少女の姿には、失踪事件の再現というよりは、少女時代のジャクスンの内面が反映されているように思われる。

 

 ここまでなら、少女の心理を端正に描いた小説だが、ある事件を契機に、ナタリーは自らの鏡像めいた友人と小旅行に出る。この部分の描写が、それ自体幻想であるような、浮遊感覚漂うものであり、後の作品に通じるものを思わせる。作者としては、シュールレアリズム的な技法をことさらに使ったわけではないだろう。ナタリーが出会う異景が、彼女の内面を裏返したらこうなるといった、心理と地続きになっているところが、作者の持ち味でもある。その世界で、彼女は「ただ一人の相手……ただ一人の敵」を自覚する。結末のつけ方には、いささか戸惑いも憶えるが、それがハッピーエンドでないことは明らかだ。

 

 数々の伝説に彩られた斯界の暴れん坊将軍。身長は低いが、五度結婚。「ハリウッドのもっとも好ましい独身男性四人」に選ばれたこともある。危険なヴィジョンの持主。

 ハーラン・エリスン『死の鳥』

 ハーラン・エリスンは、アメリカSF界の生きる伝説。ミステリファンには、アシモフ『ABAの殺人』の主人公のモデルといったほうがとおりがいいだろうか。このSF作家の日本オリジナル短編集を取り上げるのは、ほかでもない。MWA最優秀短編賞受賞作が二本も含まれているからだ。

 「鞭打たれた犬たちのうめき」(1974年受賞作)は、それまでの受賞作とまったく相貌の異なる作品で、時を置かずに紹介された邦訳(1974)も衝撃的だった。MWA賞をこの作品に授けるのは、選考委員たちにとっても賭けだったに違いない。フォーミュラ・ノベル〜約束のある形式の小説、ミステリを狂気と猥雑さが充満するNYのストリートのど真ん中に放り込んでしまったからだ。炸裂する暴力と性、殺されていく人間をただ見つめる無関心、孤独とディスコミニュケーションの支配する街に、新たなる神が顕現する…。今なお、そのヴィジョンの強烈さに目も眩む。これに比べれば、1988年受賞作「ソフト・モンキー」は、ミステリ雑誌に掲載されたもので、まだ、まろやかだ。ギャングから逃走し、奮戦するバッグ・レディ(女性浮浪者)の姿には、ユーモアすら漂うが、暴力描写は凄まじく、最底辺の眼から大都市の苛烈な現実を描き出していることには変わりない。

 他の収録作は、すべてがヒューゴー賞受賞などSF短編の名作揃いであり、奇抜で破格の構成、華麗なる比喩と語彙が乱舞する文体、権威の虚飾をはぎとる怒りにも似たまなざしを共有している。ミステリファンにとっては、時を往還する切り裂きジャックを描く「世界の縁にたつ都市をさまよう者」、複雑な構成で鮮やかな収束に着地する「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」なども必殺の一撃だ。

 

 この種のメンバーには、誰も知らない人が紛れ込んでいるのが通例だが、今回の七人では、さしずめこのご婦人。皆に愛想のいいこの女性はいったい誰?

 ヘレン・ウェルズ『エアポート危機一髪 ヴィッキー・バーの事件簿』(1953)。

 ヘレン・ウェルズは、少年少女向けのミステリ・シリーズで有名なアメリカの作家。中でも、スチュワーデスを主人公としたヴィッキー・バーと看護婦チェリー・エイムズが活躍する二つのシリーズがよく知られているとのこと。ヴィッキーのシリーズは少年少女向けに4冊ほど邦訳があるようだが、本編は本邦初公開のシリーズ8作目。

 好奇心が強くいつも溌剌としたスチュワーデス、ヴィッキーは、ふだんはニューヨークで暮らしているのだが、今回は、イリノイ州の実家の小さな町で事件に遭遇する。飛行機操縦の免許をとるため、パイロットが経営する貧乏飛行場に通ううちに、飛行場の利権にまつわる陰謀が浮上してくる。ヴィッキーが次第に陰謀を明らかにしていく過程が中心で、謎解き的にはこれといった綾はあまりないのだが、免許を取るためのヴィッキーの悪戦苦闘と空を飛ぶ歓び、貧乏飛行場を盛り立てるための試行錯誤、妹の高校生ジニーら家族との絆がほどよく盛り込まれているし、利権にまつわる陰謀も少年少女向けと思えないほど当時の社会相を反映している。実在した、飛行機操縦を楽しむ女性の集まり「全米女性パイロット協会」のメンバーが登場するなど、登場人物は飛行機好きの人ばかり。航空ファンにも手に取ってほしい一冊。

 

 さて、個性豊かな黄金の七人が何を企んでいるかって?

 あなたの時間と財布を狙っています。(それは、版元)

   

ストラングル・成田(すとらんぐる・なりた)

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 ミステリ読者。北海道在住。

 ツイッターアカウントは @stranglenarita

  

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