そこに置かれてあった箱の蓋《ふた》に、 菓子と橘《たちばな》の実を混ぜて盛ってあった中の、 橘を源氏は手にもてあそびながら、 「橘のかをりし袖《そで》によそふれば変はれる身とも思ほえぬかな 長い年月の間、どんな時にも恋しく思い出すばかりで、 慰めは少しも得られなかった私が、 故人にそのままなあなたを家の中で見ることは、夢でないかとうれしいにつけても、 また昔が思われます。あなたも私を愛してください」 と言って、玉鬘《たまかずら》の手を取った。 女はこんなふうに扱われたことがなかったから、 心持ちが急に暗く憂鬱《ゆううつ》になったが、 ただ腑《ふ》に落ちぬふうを見せただけで、おおようにしながら、…