大塚英志『少女民俗学』

図書館で読んだ本のメモを電子上で残しておこうというまったくもって個人的な試み。
もし、何か問題があったら直ぐに消そうと思ふ

書誌事項

大塚英志『少女民俗学-世紀末の神話をつむぐ「巫女の末裔」』カッパ・サイエンス1989

少女民俗学―世紀末の神話をつむぐ「巫女の末裔」 (カッパ・サイエンス)

少女民俗学―世紀末の神話をつむぐ「巫女の末裔」 (カッパ・サイエンス)

プロローグ-誰もが少女である時代

  • 文の引用

「私たちの内側に<少女>がいるのだ」
「近代社会は、女性を家と家とのあいだで交換される「モノ」として、位置づけようとした。」
「少女はまっ先に「生産」からはずされた存在」

  • 気になった単語抽出

p9[光GENJI] p10[伝言ダイヤル]

1<制服>-「少女」はいかにして誕生したか

  • 文の引用

「<制服>は管理教育の象徴ではけっしてない。むしろ、<制服>は、自分が<少女>であること
 を誇示する記号としての意味を持っている」
「<制服>が<少女>期という年齢と結びついている」
「性的成熟と労働力として期待されることの二つをもって民俗社会では
 十三歳を境に子供から大人になった」
「<少女>は、「消費する性」を保証するものとして<制服>を着る」

  • 要約的(主観あり=間違いあり)

[明治期-袴 → 大正期-セーラー服 → ブレザー]=男装

  • 気になった単語抽出

p29[山本直樹「極めてかもしだ」] p30[松苗あけみ「純情クレイジーフルーツ」]
p32[オリーブ][斎藤由貴][後藤久美子]
p34[森伸之「東京女子高制服図鑑」]
p37[おニャン子クラブ]

2<変体少女文字>-消費社会を呑み込む「かわいいカルチャー」

  • 文の引用

「①ナールという特殊な写植(写真植字)書体の普及」―「文字の太さに強弱がなく、角がすべて丸い」
「②横書きとシャープペンシルの普及」


「見られることを意識した手描き文字」
「<少女>だけの共通感覚を伝えるモノローグ」


「投書欄やまんがのコマのすみの落書きではあきたらなくなった
 「書く(描く)こと」への情熱は、自前のメディア、同人誌を産み出す」

ひら仮名
「男たちの漢語文化に対し、そこから排除された女性たちが自分たちを表現するためつくりだした文字」

  • 気になった単語抽出

p49[山根一眞「変体少女文学の研究」] [直指庵-思い出草]
p53[サンリオ-ハローキティ,パティ&ジミー,リトルツイスター]
p53[二十四年組-萩尾望都(文学),竹宮恵子少年愛),大島弓子(哲学),池田理代子(大河ロマン)]
p54[花とゆめ][プリンセス][ミミ][ララ][ちゃお][ひとみ]
p55[りぼん-田渕由美子,陸奥A子,太刀掛秀子,篠崎まこと]-<乙女ちっく>
p60[一条ゆかり]
p65[出口なお]-[お筆先]
p67[永田ルリ子]  [きたがわ翔]

3<部屋>-「精霊」たちを迎える場所

  • 引用・要約

「<かわいいもの>が集積されたとき、一人の<かわいい>アイドルの像が浮かび上がってくる」
―「<かわいいモノ>の集合」
「生活が存在しない」=「少女たちの部屋」=都市空間
「<かわいいモノ>の入れもの、器」=子供部屋


「母屋」=「生産・生活」
「ネヤド」=「仮屋」=「束の間の自由の空間」―異性に対し開かれている


「「家」とは本質的には女たちが神を祀るために籠る霊的な空間、つまりは異界との中継地点」


「<かわいいモノ>は、<かわいい>精霊が宿る呪具であり依代(霊がつく<人や物>である」

  • 気になった単語抽出など

p70[Dunk]
p71[渡辺満里奈]―[アリスの絵本(洋書),セサミストリートマペット,くまのプーさんの原書]
p73[野田正彰『漂白される子供たち』
p80[小川未明「赤い船」]
p81[外山知徳]
p88[ザシキ-男性的空間-社会や国家に連なっていく公的な神][ナンド-女性的空間-稲の精霊の末裔][妹の力]

4<学校>-束の間の「無縁の場」

  • 引用・要約など

「<学校>=国家(民主国家or警察国家)と結びつける」=「男性文化的」
「時を支配=国民を支配・・・・<学校>、元号論争」


「少年まんがの硬派もの」―<学校>の外部との抗争の中で<学校>の輪郭がみえる,「愛校心」→「愛国心

「少女まんがの学園もの」―外部から遮断、成長を拒否―無縁の場


「<少年>とは<少女>の理想型である。「産む性」を拒否した第三の性である<少女>はもともとモノセックスな存在」

「近代とは異人を許さない社会」 「日本の民俗社会」―「子供」や「狂人」は神の依代

  • 気になった単語抽出など

p94坂本秀夫『校則の研究』
p96ちばてつや「ハリスの旋風」,本宮ひろ志男一匹ガキ大将」,梶原一騎荘司としお「夕焼け番長」,雁屋哲池上遼一「男組」
p101紡木たく「みんなで卒業をうたおう」,西谷祥子「レモンとサクランボ」
p104「少女画報」-吉野信子「花物語」-寄宿舎物語
p104本田和子『異文化としての子ども』
p105萩尾望都トーマの心臓
p110網野善彦『無縁・公界・楽』-[円陣][縁切り寺]

5<リカちゃん人形>-母親像の少女化が生んだ「母子枢軸」

  • 引用・要約など

「<ママ>は自分を含む無縁的学問の象徴」=「私と相似形のママ=私」=複製

  • 気になった単語抽出など

p114増淵宗一『リカちゃんのフシギ学』
p116〜117石子順造『戦後マンガ史ノート』
細川知栄子「母の名をよべば」,西奈貴美子「母のひみつ」,赤松セツ子「ママ一ばん星よ」
p118牧美也子「少女三人」  [母もの]
p120楳図かずお「ママがこわい」,[狐女房]

6<ポエム>-日常に染み出した「叙情画の世界」

  • 引用・要約など

「心象風景を描いたフィクション」「内面を表現するための素朴な手段」
一条ゆかり,陸奥A子,太刀掛秀子」→<ポエム>-<変体少女文字>


「<少女性>とは、現実から遠く離れた少女の聖域に存在する虚構の風景」
叙情詩―「相手など必要ない」「自分の気持ちが相手に届かないという感傷そのもの」
感傷―「閉じた少女性の時空に成立する「感傷」のための「感傷」


「現実の中で「物語」が生き延びる」ため「<物語>を補強するための商品が必要」
「<おまじない>は少女が現実の男の子との関係を、少女まんがの<物語>として補強しようとする呪術」
「結局は、<物語>的関係は、<おまじない>にたよるしかないほどか弱いものである」

  • 気になった単語抽出など

p130岡田有希子 p136俵万智 p138「MY詩集」「遠い町」
p143「少女倶楽部」(大正三年)―「叙情画」と詩―西条八十-蕗谷虹児,加藤まさを-須藤重⇒<イラストポエム>
p148
「日記帳の中には同じプロダクションの先輩である松田聖子を目標とするアイドル岡田有希子
 日付のない時空を生きる、<ポエム少女>の二人が存在」
p149ショートケーキハウス―2×4工法で建てられた建売り住宅
p151山田太一岸辺のアルバム」, 「金曜日の妻たちへ」, 村上春樹ノルウェイの森』-全共闘の時代を「恋愛小説」にした
p154マイバースディ編集「私の知っているおまじない」

7<朝シャン>-ケガレをきらう都市の「巫女」たち

  • 引用・要約など

イメージとしての汚さ=ケガレ
ケ(日常)→ケガレ(ケ枯れ)→ハレ(祭り、儀式)
「清潔志向」①都市住民の病理の縮図 ②「ケガレ」から脱出する儀式−禊,水垢離(千垢離,寒垢離)
<朝シャン>-表層[おしゃれ]-深層[都市住民の過剰な潔癖症]-奥底[日本人のフォークロア]


「閉じられた聖なる空間に未婚の少女が籠ることではじめて神との交信が可能になる、という原理は
神道や民俗行事の中に一貫して見てとることができる」
「結界の中に無垢な少女がいるという図式」

  • 気になった単語抽出など

p156赤坂憲雄『排除の現象学
p161野田正彰『漂白される子供たち』
p163MB編集部「私の知っているおまじない」
p164伊邪那岐命−禊
p165語り物「小栗判官」−禊の場としての温泉
p166[餓鬼阿弥]
p168[オンド]−巫女の役割を果たす女性,
p168[斎宮]−天皇の娘が天照大神を祀るため巫女として伊勢神宮につかわされた制度

8<噂話><怪談>-「霊界」からのメッセージ

  • 引用・要約など

「昔話」−フィクションとして
「世間話」−事実と信じられる噂話。「ムラ」の外にかかわる話-マスコミの伝える「ハナシ」


「<学校>も<部屋>も都市空間及び近代社会の合理性にもとづくシステムから切り離された無縁の空間」-異界-零場


「世間話」①外の現実世界からもたらされる話  ②異界・霊界からもたらされる話
「世間話」は合理的空間に穴をあけ、その外部から非合理的な異界を露出させるハナシ


ドラえもん」「サザエさん」の世界-<かわいい空間><無垢なる空間>無菌の空間としての<部屋>
→この世界に小さな風穴をあける<噂話><異界>とのアクセス

  • 気になった単語抽出など

p172昭和五四年初夏[口裂け女],六〇年〜六二年[サザエさん,ドラえもんの悲劇的結末]
p172[マクドナルド猫肉説],昭和七年夏-九州西端-「件くだん」-件の如し-桜田勝徳『江島平島記』
p174柳田國男「世間話の研究」
p177オカルト・ホラーコミック誌「ハロウィン」「ホラーハウス」「オカルトハウス」,『あなたの恐怖体験』第一集(大陸書房
p179宮田登-「世間話」と「場所」-都市空間の周縁--橋=端=この世の端
p181常光徹「学校の世間話-中学生の妖怪伝承にみる異界的空間」-女子トイレ、特別教室-学校空間の周縁的場所
p186[猿聟入り]−三姉妹の末妹, [三枚の御礼][牛方山姥][古事記-イザナギ]−呪的逃走

9<おばあちゃん>-「無垢」な、「かわいい」私たち

  • 引用・要約など

「少女の時間」=閉鎖的な清浄性のイメージ
<おばさん>−「女」という性の所有者 <少女><おばあちゃん>−性を所有していない身体
初潮前の幼女・閉経後の老婆-生理がない-無月経-「性」そのものから無縁の存在
「無性志向」(無性の者同士の<性>のない恋愛)

  • 気になった単語抽出など

p190ロラン・バルト『表徴の帝国』
p192高野文子「田辺のつる」-少女性は過ぎ去りゆく過去として
p192中森明夫『オシャレ泥棒』
  「女」として成熟することを拒否、「女」という産む性を通り越していきなり<おばあちゃん>になってしまいたい

p202「ホットロード」, 萩尾望都トーマの心臓」,「11人いる!」-フロルベリチェリ[完全雌雄同体]

10<男の子>-「飛べない少女」と「空を飛ぶ神々」

  • 引用・要約など

歌舞伎
「世界」=物語の骨格やあらすじ、登場人物の役名や性格、人間関係、時代背景=共有財産
「趣向」=「世界」の枠の中で創意工夫をこらし、彼自身のシナリオをつくる


神話の世界-日常を支配する秩序が定められる前の時空-日常とは異なる「ハレ」の空間
「群れとしての少年」-「群れ」の中にいるかぎり、<少年>は現実世界の存在ではなく聖なる少年心
「無数」に存在することが、民俗社会における神の条件


「<少女>とは、産む性の徴を身体に持ちながら、同時に産む性を拒否した存在」
「成熟、という時間の流れにあらがうことでかろうじて成立する聖性」


「彼女たちの身体には否応なく初潮という「現実」が現われ、男たちはその身体=性を商品として消費しようと」
「男の子は女の子から巫女性を奪い、かわりに<モノ>で少女たちのアジールを強化する」
「誰も異界には至れない。それが<近代>という時代なのだといれるかもしれない」

  • 気になった単語抽出など

p206[コミックマーケット(通称コミケット)],p207「翼同人誌」-p211「翼世界」-少年のみが存在
p208日向小次郎-若島津健, 梶原一騎的熱血少年まんがの世界→稲垣足穂少年愛の世界
p209高野宮子飛ぶ夢をしばらく見ない」-「つばさアイドル100%」―山田太一飛ぶ夢をしばらく見ない」-『ジェニーの肖像』の正反対
p210竹宮恵子風と木の詩
p215「ジャニーズ事務所」(フォーリーブスから光GENJI), 車田正美聖闘士星矢
p217一〇代後半の二人組「光」,一〇代なかばの五人グループ「GENJI」
p221萩尾望都ポーの一族

11<卒業>と<死>-手さぐりの「通過儀礼

  • 引用・要約など

「少女が異界にはいり、再び日常に回帰してくることで大人へと成長するという昔話の持っている基本構造」
 猿聟入り-F1不遇な生活→A家を出る→F2冒険/遍歴→B結婚→F3幸福な生活
 アイドル-F1→Aデビュー→F2アイドル→B結婚→F3幸福な生活
                              小松和彦『神々の精神史』
民俗社会における子供期
神-出生(神界からの分離)-子供期(神→人への儀礼の反復)-13歳(人間界への統合)-人間
通過儀礼―分離の儀礼→コミュタスの状態を示す儀礼→(再)統合の儀礼


「少女の時間とは、近代社会が「大人」と「子供」のあいだにつくりあげた、一種のコミュニタスである」
「しかし、この少女というコミュニタスは(中略)その始まりと終わりがいたってあいまい(中略)
分離の儀礼と統合の儀礼が存在しない」


「少女の聖性、などというぼくたち男の幻想は、たぶん彼女たちの「妹の力」に寄せる、ぼくたちの全面的な依頼感にもとづいているのかもしれない。」

  • 気になった単語抽出など

p226「おニャン子クラブ」-やがて終わる少女期-<卒業>というシステム
p229
昭和五〇年代はじめ[木之内みどり][山口百恵][キャンディーズ]
 ―少女が芸能界に入り、やがて配偶者となるべき男性と出会い、芸能界から引退し結婚するというひとつの図式
p231ヴィクター・ターナー[コミュニタス]―社会の枠組みの外に出てしまった状態
p237「卒業」-菊地桃子,斎藤由貴,尾崎豊
p239岡田有希子
永遠の少女世界に飛ぼうとして、この何も存在しない奈落に落ちていった」
「閉じた<少女>の世界から離脱しようとした」,  「しぼんだままの風船」
p240[魂呼び(たまよび)]

エピローグ-「少女」はわれわれをどこへ連れていくのか

  • 引用・要約など

「<かわい>くて<かわいそう>な自分」 「<かわいい>というバリヤーに守られた虚構の世界」
救済者・巫女である<少女>を心のどこかで待っている「かわいくてかわいそう」な僕
「ぼくたちはぼくたちが<大人>になるための儀式を、自分たちで行わなくてはいけない」

  • 気になった単語抽出など

p243いがらしみきおぼのぼの」-無垢なるアジール
p246徒然草など-「かわゆし」=見るに耐えないほど気の毒だ
p247「かわゆし」-「かおはゆし」=顔が火照って見るに耐えない

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おしまい