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未谷おとのダンセイニ的日常 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-10-29 高校演劇におけるアイルランド劇上演目録

高校演劇におけるアイルランド劇上演目録

未谷おと


 戦後、解放されたという雰囲気の中で高校生と演劇好きの先生たちは演劇を求めた。その中で、アイルランド劇も一定の役割を果たすのだが、大正時代アイルランド劇の流行がその準備を行い、またイェイツらがアベイ座で行ったように一日に数本の短い劇を通して行うというスタイルが高校演劇に適していたおかげで、主としてシングに集中するものの、アベイ座の作家たちの作品が日本の高校生たちによって演じられることができたのであった。

 翻訳劇は、高校演劇の中では異端である。年若いしかもあまり訓練されていない役者が演じるには不向きであって、なかなか取り上げられない。一九五〇年代の間は脚本の不足から選ばれたこともあっただろう。しかしながら、戦後の復興とともに、高校演劇に向いた戯曲も多数発表されてきた。演劇部顧問や生徒たちによる戯曲の中にはその後何年にもわたって演じられる名作も多数が現れてきた。そうした状況にあっても戯曲が選定されてきたアイルランド劇には一定のちからがあったといってもよいと思う。

 今回、イェイツの上演記録は一点しか見つからなかったが、彼の象徴的な劇は高校生が演じるには難しすぎるのであろう。シングの劇は、キャストの人数が少ないこと、舞台装置が簡素なところ、短い上演時間などの点で高校生にも取り上げられやすいと思われる。コンクールなどでは一時間の制約がある。

 この上演記録だけを見るとアイルランド劇に大きな存在感を感じるかもしれないが、全国の膨大な上演記録の中にあってはさほど目立つものではない。しかし、高校生が取り組むには難度が高いという意味では、ひとつの指標としての役割はあったのではないだろうか。

最後に。参考資料の半分は横浜の演劇資料室で参照させていただいた。ここに記して感謝する次第である。また、門外漢にもかかわらず資料閲覧の手助けをしてくれた我が友人ETEさんにも最大の感謝をささげる。

【凡例】

一、本目録は日本の高校におけるアイルランド劇の上演記録を収集したものである。収集対象の作家としては、ダンセイニ、シング、グレゴリー夫人イェイツを取り上げた。

一、原則として作家別の上演年月の早いものから順に記載した。

一、タイトルや上演イベント名、校名は記録に残されたものを記した。

一、掲載書式は以下の通り。

通し番号◇上演年月日/高校/発表イベント/「上演作品」/参考資料/注釈

※上演日 上演日が複数にまたがることもあるが、おそらくはコンクールの日程を示したもので、上演は一度きりと思われる。

※高校 高校名は記録上では短縮形で表記されることがある。本来であれば正式な校名を調べるべきだが、本目録の作成がもっか大急ぎで作られており、時間がたりないため、資料のままで記載している。

※発表イベント 高校演劇の発表の場は文化祭や単独の定期公演などもあるが、公式の記録として残されているのは都道府県で行われるコンクールがほとんどである。

※上演劇場については、必要があると認められるときだけ、注釈にいれた。地区発表会や地区予選などの場合は、上演劇場の情報は記載されない場合がある。

※上演作品はタイトルを見ればほぼ同定できるため、記録のまま記載した。

※訳者は元資料にある場合のみあげた。松村みね子訳がほとんどだが、「松村みやこ」などと間違いが散見される。

一、参考資料は最後に挙げた。

一、誤り、欠落等の箇所について、読者のご教示を頂ければ幸いである。

【上演記録】

ダンセイニ卿

1947.3.? 県立横浜第一高等女学校/不明/「山の神々」/神奈川県演劇史

1947.11?.? 県立小田原高等学校/不明/「山の神々」/神奈川の高校演劇/初公演。その後、小田原城内高との合同公演あり。

1948 県立小田原高等学校/地区発表会/「山の神々」/神奈川の高校演劇/

1949.3.21-29 瑞陵高校/第二回中日学生演劇コンクール/「光の門」/中部日本高等学校演劇/

1949.7.17 札幌一高/不明(単独発表と思われる)/「光の門」/北海道演劇史稿

1949.11.3 県立千葉高校/第3回千葉県文化祭(高校演劇コンクール第二回)/「光の門」/高校演劇30年のあゆみ(千葉県)/第一位。ビルの役は若き宇津井健によるもの。

1949.12.9-10 富士見高校/第三回東京都高校演劇コンクール中央発表会/「ナイルの祈り」/高校演劇二十年/演劇部脚色。「女王の敵」より改題

1950.1.29 椙山女学園高校/第三回中日演劇コンクール/「女王の敵」/中部日本高等学校演劇/入選賞

1963 天羽高/第十六回千葉県高校演劇コンクール/「光の門」/高校演劇30年のあゆみ(千葉県

1961 大東高校/県大会?/「神様と乞食」/島根の高校演劇40年のあゆみ/タイトルから「山の神々」の改変と思われる

1984 県立神奈川工業高校横浜地区発表会?/「光の門」/神奈川県の高校演劇

●シング

1947.1.13-15 金城女専/学生演劇コンクール/「海に行く騎者」/中部日本高等学校演劇/第三位

1948 県立千葉女子高等学校/第2回千葉県文化祭第一千葉県高校演劇コンクール)/「海に行く勇者」/千葉県高校演劇史/第二位

1948.1.21-25 名古屋高女/第一中日演劇コンクール/「海にいく騎手」/中部日本高等学校演劇/入選賞。1.26までとの記述あり

1948.12.20-21 津曲高校/鹿児島新制高校演劇同好会冬季演劇発表会/「海に行く騎者」/かごしまの高校演劇50年/両日公演

1949.8.? 大宮高等学校宮崎県高校演劇コンクール/「谷の影」/みやざきの演劇

1949.12.9-10 都立足立/第三回東京都高校演劇コンクール中央発表会/「海に行く騎者」/高校演劇二十年

1950 高松高/第五回高校研究発表会/「プレイボーイ」/結成10周年記念誌(岩手県

1950 岩手女子高/第五回高校研究発表会/「海に行く騎者」/結成10周年記念誌(岩手県

1951 朝日(岡山県)/不明/「海に行く騎士」/おかやまの高校演劇

1951 邑久(岡山県)/不明/「海に行く騎士」/おかやまの高校演劇

1951 勝山/不明/「プレイボーイ」(ママ)/おかやまの高校演劇

1951.11 益田高校・益田農林高校/高校演劇大会(津和野)/「海へ行く騎者」/島根の高校演劇40年のあゆみ

1951.11 益田高校・益田農林高校/文化祭/「海へ行く騎者」/島根の高校演劇40年のあゆみ

1951.1.? 佐賀高校/不明/「海にいく騎手」佐賀演連30年のあゆみ

1951.10.13-14 大津高校第一回コンクール/「海に行く騎者」/熊本の高校演劇/演技努力賞

1952.11.22-23 丹生/第五回高校生芸術祭/「海に行く騎者」/福井県の高校演劇40年

1954 国府/不明/「海に行く騎者」/中部日本高等学校演劇

1955 泉丘/不明/「海に行く騎者」/中部日本高等学校演劇

1955 益田高校/県大会?/「海に行く騎者」/島根の高校演劇40年のあゆみ

1955.11.27 香椎福岡県地区大会/「海へ騎るゆく人々」/福岡県の高校演劇

1956.4 大垣北/不明/「海に行く騎手」/中部日本高等学校演劇、ホリゾント岐阜県)/西濃地区および県大会にて公演。どちらが4月に行われたのかは不明。

1956.1.21-22 香椎/県中央発表会(福岡県)/「海へ騎るゆく人々」/福岡県の高校演劇/四位

1957.1.27 美作/第六回岡山県高校演劇発表会美作地区会場/「海へ行く騎手」/おかやまの高校演劇

1957.9.23 砺波/砺波地区(発表会?)/「谷間の陰」/高校演劇二十年史(富山県

1957.11.30-12.1 垂水高校/第10回高校演劇発表会/海に行く騎者/かごしまの高校演劇50年/松村みね子

1959.7 鶯谷/不明/「海へ」/中部日本高等学校演劇/シング劇かは不明だが、可能性は高い

1959.11.8 滑川/第二回県大会新川地区予選/「海に行く騎者」/高校演劇二十年史(富山県)/松村みね子

1960 高岡/不明/「海へ騎り行く人々」/高校演劇二十年史(富山県)/資料コピーのミスで開催地区がわからない。

1960.8.3-5 松永高校(広島)/全国高校演劇研究大会(第六回)/「谷の影」/福岡県の高校演劇/名古屋市愛知文化講堂

1960.9.11 第一高校/第九回コンクール西部地区予選/「海に行く騎者」/熊本県の高校演劇/ラジオ熊本杯入賞。講評「第一高のシングは、なかなかよくやっていたと思います。けれど、残念ながら大物すぎてこなし切れなかった。しかし、これにこりないで、どんどん大きなものにぶつかって行きなさい」(内木文英)

1961 犬山/不明/「海に行く騎者」/中部日本高等学校演劇

1961 会女/会津地区コンクール/「海に行く騎者」/福島県高校演劇30年の歩み

1961.11.25-26 会女/第15回福島県演劇コンクール/「海に行く騎者」/福島県高校演劇30年の歩み/優秀賞

1962.1.28 岡山朝日/第二回岡山市内高校演劇発表会/「海に行く騎手」/おかやまの高校演劇

1962.9.30 原高/相双地区高校演劇コンクール/「海へ騎りゆく人々」/福島県高校演劇30年の歩み

1963 石見沢西高/南空知地区大会/「海に行く騎者」/北海道高等学校創作劇集

1963.11.9-10 市立川崎高校/県高校演劇発表会/「海に行く騎者」/神奈川の高校演劇/松村みね子

1964.6.28 双高/第7回相双地区高校演劇春の発表会/「海へ行く騎者」/福島県高校演劇30年の歩み

1964.11.22-23 都立立川高校第一八回東京都高校演劇コンクール中央発表会/「海に騎り行く人々」/高校演劇二十年

1965 横浜市立桜丘高等学校/県コンクール/「海に騎り行く人々」/神奈川の高校演劇/1966年の記述もあり

1965 松江北高校/県大会?/「海に騎りゆく人々」/島根の高校演劇40年のあゆみ

1966 菊里/不明/「海に騎りゆく人々」/中部日本高等学校演劇

1966.10.2 新湊/第九回県大会高岡地区予選/「海に行く騎者」/高校演劇二十年史(富山県

1967.11.25-26 県立横須賀高校/県高校演劇発表会(神奈川)/谷の影/神奈川の高校演劇

196811.9-10 杉森女子/福岡県地区大会/「海へ騎るゆく人々」/福岡県の高校演劇

1970.10.3-4 県立盲学校/第十三回県大会富山地区予選/「海に行く騎者」/高校演劇二十年史(富山県)/松村みね子訳。視覚障害者による演劇で、スタッフ名のあとに障害の程度が弱視全盲などと記述。現代であればプライバシーの侵害とされて問題視されただろう。

1970.11.22,30 富士見高校/第二十四回高校演劇東京都大会/「海に行く騎者」/私の高校演劇

1976.10.9-10 大安寺/第二六回岡山市内演劇発表会/「海に騎りゆく人々」/おかやまの高校演劇

1979.11.24 安房南高校/第三二回中央発表会/「海に行く騎者」/千葉県高校演劇史/上演意図に「私たちは、房州の言葉でこの作品を演じてみたい」とあり、千葉県の方言に改変して上演したものと思われる。キャスト・スタッフ等詳細あり。


●グレゴリー夫人

1947.2.23 

1948.1.21-26 愛知中学/第一中日演劇コンクール「月の出」/中部日本高等学校演劇

1949.8.? 妻高等学校宮崎県高校演劇コンクール/「月の出」/みやざきの演劇/優勝

1950.7.24-25 鎮西高校/第五回演劇発表会(熊本県)/「月の出」/熊本の高校演劇/照明賞

1954.11.13 県立児島高校/文化祭/「噂のひろまり」/おかやまの高校演劇

1956.9.22-23 沼津商業高校/第3回静岡県東部高校演劇コンクール/「月の出」/東部高校演劇三十五年の歩み(静岡県)/沼津商業は23日に公演

1965 県立緑ヶ丘横浜地区大会?/「マクドナウの妻」/神奈川の高校演劇

1966.11.6 沼津工業高校定時制沼津・駿東地区(予選?)/「月の出」/東部高校演劇三十五年の歩み(静岡県

イェイツ

1946 都立五中/演劇発表会/「砂時計」/私の高校演劇


【参考資料】

北海道高等学校創作劇集, 北海道高等学校文化連盟, 1964

高校演劇二十年, 東京都高等学校演劇研究会編, 未来社, 1966

20年のあゆみ ―熊本の高校演劇―, 井上真治編著, 熊本県高校演劇連盟, 1967

北海道演劇史稿, 北海道演劇史編集委員会, 北海道教育委員会, 1974

福岡県の高校演劇 ―25年のあしあと―, 福岡県高等学校演劇連盟, 1974

福島県高校演劇30年の歩み, 福島県高等学校演劇連盟, 1978

高校演劇三十年のあゆみ, 千葉県高等学校演劇連盟, 1978

高校演劇二十年史, 富山県高校演劇研究協議会, 1978

おかやまの高校演劇, 岡山県高等学校演劇協議会編, 福武書店, 1981

結成十周年記念誌, 岩手県高等学校演劇協議会, 1982

ホリゾント <創立30周年記念>, 岐阜県高等学校演劇連盟, 1983

佐高演連 30年のあゆみ(30周年記念誌), 佐賀県高等学校演劇連盟, 1984

神奈川の高校演劇, 神奈川県高等学校演劇連盟編, 1985

島根の高校演劇40年のあゆみ, 島根県高等学校文化連盟演劇部門, 1985

中部日本高等学校演劇 ―40年の歩みー, 中部日本高等学校演劇連盟, 1987

福井県の高校演劇40年 ビューネとともに, 福井県高等学校演劇連盟, 1990

東部高校演劇の歩み, 静岡県東部高等学校演劇協議会, 1990

全国高等学校演劇協議会四十年史, 全国高等学校演劇協議会, 1994

神奈川県演劇史, 社団法人横浜演劇研究所, 1994

Dramatic Stage かごしまの高校演劇50年, 鹿児島県高等学校演劇連盟,1998

みやざきの演劇 1945〜2003, 矢野一誠, 鉱脈社, 2004

私の高校演劇, 内木文英, 晩成書房, 2005

千葉県高校演劇史 懐かしの青春記録, 白銀彦太郎編, (発行年不明)


メモ

 本記事は、『アイルランドと日本をめぐる視座』二〇一六年六月二一日 初版発行(五〇部)西方猫耳教会 が初出である。

2014-05-08 ペガーナロスト14号発行

ダンセイニ研究誌『ペガーナロスト14号』を5月5日に発行しました。

次の場所で入手可能です。

古書肆マルドロール http://maldoror.web.fc2.com/

盛林堂書房(@seirindou) http://d.hatena.ne.jp/seirindou_syobou/

恵文社一乗寺店 http://www.keibunsha-books.com/

目次は次の通りです。

ダンセイニ卿の思い出と現在 井村君江

ダンセイニ卿小詩集(1) 西崎憲

特集 ダンセイニ卿単行本未収集作品

 編者前書き

第一部『失われた物語 第一巻』

"Lost Tales Vol1"のこと 稲垣 博

エルフランドを想って マイケル・トートレロ 稲垣博訳

『失われた物語 第一巻』序文 マイクル・スワンウィック 稲垣博訳

第二部 ダンセイニ卿諸作品 稲垣博訳

(無題)

忠誠

歓びの黄金都市

戦争目的委員会

中立派による要約

第二百二十師団

極秘

創造物の傑作

ベルリンの中立性

西に向かって

より高度な中立性

リトル・ティム・ブラネハン

太陽の裏側で

サッパナルのソロボン

[エッセイ]無意識の泉

 我々の問題

第二特集 ダンセイニの影響力―稲垣足穂、ヘンリー・カットナー、西條八十

前書き 未谷おと

オブジェ化する物語――ダンセイニ『五十一話集』と稲垣足穂 小野塚 力

魂を喰らうもの ヘンリー・カットナー 雨宮伊都訳

「魂を喰らうもの」解説代わりの覚え書き 雨宮伊都

西條八十「不思議な窓」について――未公表の原作の存在とTVアニメ化の経緯 未谷おと

[ムングの獣かく語りき]『ミス・カビッジと伝説の国のドラゴン』 皇帝栄ちゃん

『背月譚集』 ― ダンセイニ処女書評 ダンセイニ卿 弾青娥訳

「背月譚集」解説 弾青娥

2012-03-17

片影 第四号発売中

「幻影文藝雑誌 片影 第四号」発行しました。

目次は次の通り。

水晶散歩(4)  kao(堀内薫)
『隣り合わせの灰と青春』論  小野塚超短編のセカイ 第二回  松本楽志
ラヴクラフトにおけるダンセイニ受容(四)  未谷おと

一部千円です。

古書肆マルドロールさんで通販を開始しております。
古書肆マルドロール http://maldoror.web.fc2.com/

西荻盛林堂書房さんの店頭で小数部扱っているようです。
http://d.hatena.ne.jp/seirindou_syobou/

長野ギャラリーショップ花蔵でも取り扱っているはずです。
http://d.hatena.ne.jp/catran009/20120217/1329459241

2012-03-16

森きくお展に行ってきた。

奈良の喜多ギャラリーで行われている「森きくお展」に行ってきた。

「森きくお展/祈り」

喜多ギャラリー

2012年3月11日-4月8日

初日は詩の朗読と音楽を何かやるとのことで、たまには生音を聞いておこうと思い出立した。

朗読は詩人の鳥越ゆり子さん。不勉強で申し訳ないが私は存じ上げない方で、どうやら『音素砂丘』という詩集を出していらっしゃるようだ。イベントは午後三時にはじまるのだが、私は遅刻してしまい、三十分ぐらい遅れて会場の喜多ギャラリーに到着した。駅からの道行きでは通り雨に降られて大変だった。扉を開けると、すでに朗読が始まっており、イベントの開始が遅れてはいないかとの無駄な期待は意味がないことがその瞬間にはっきりした。印象に残った詩は、忘れっぽくて申し訳ないが作者の名を聞いたが失念してしまったのだが、種を蒔けと呼びかけるものである。種まきといえばミレーだが、相通じるものが多少なりともないとはいえない。収穫のことは考えるな、ただ種を蒔け。そのように宗教的ともいえる情熱で呼びかけるのである。種とは人間の愛を示すものと思われる。原始共産主義では持つ者は分け与えればよいわけだが、ここでは持たないものも分け与えなければならない。大地と天の前に身体を投げ出し、存在を<世界>に対してさらけ出す。それが種を蒔くということだろう。

音楽は、ウード奏者の常味裕司さんと、オーボエ奏者tomocaさんによるもので、アラブ世界の音楽を奏でてくれた。ウードなる楽器は初めてみたのだが、アラブ弦楽器で、リュートなどの元になったものだという。ノリの良い、サービス精神豊富な曲が多く、純粋にアコースティックな音であるはずなのに、私などはメタルロックを思い起こした。会場は大いに盛り上がり、すばらしい演奏であった。常味さんはマグレブ諸国の話を演奏の合間に挟んできたので、ベルベル人西サハラについて何か聞きたかったのだが、残念ながら機会がなかった。tomocaさんにはオーボエの話など聞きたいと思っていたが、これまた機会がなかった。失礼ながらオーボエのことをまったく知らないので、いい機会とばかりにどんなものか聞いておきたかったのだが。

森きくおさんも当然会場にいらっしゃっており、朗読と演奏が終わってからのパーティで少しお話することができた。森さんの絵は、バリ在住であるので、バリのものをモチーフにしている。蓮の花、バリの聖なる山、バリの踊り子。そして、頻出する三角形。私の質問に対して森さんは下方三角形と上方三角形を組み合わせたダビデの星について言及されていたが、ご本人の回答に対してまことに失礼な感想で申し訳ないが、私には絵からそうした砂漠の宗教の匂いは感じ取れなかった。バリの聖なる山の上方三角形、また植物の葉の下方三角形、蓮の花の三角形を見るに、大自然の形象化として用いられているように感じた。バリの風景や文物を描きながらも、意識の風景の射程としては、地球上すべてを描こうとしているのではないか。とすると、森作品に頻出する緑は生物を意味し、白は無生物を意味すると思われる。しかし、私がもっともすごい思った絵画は、ギャラリー二階の階段上がって正面に飾られている大きな絵、藍色で日入り後の蓮の風景を描いたものであった。太陽が沈み、色彩を失った風景。影となる蓮の花と葉。色彩豊かなバリの昼間からみれば、死の風景といっても過言ではない。だが、私がそれを懐かしく感じたことも確かである。黄昏とは、境界であり、異界への入口でもある。バリの藍色の中に日本の黄昏に通じた秘密の入口を見たように思った。

「森きくお展/祈り」は奈良の喜多ギャラリーにて4月8日まで開催中。

2012-03-02

幻影文藝雑誌 片影 第四号 もうすぐ発売!

ごく一部からご好評頂いております「片影」ですが、第四号を入稿しており、もうすぐ刷り上がってきます。内容は以下の通り。

水晶散歩(4)  kao(堀内薫)
『隣り合わせの灰と青春』論  小野塚超短編のセカイ 第二回  松本楽志
ラヴクラフトにおけるダンセイニ受容(四)  未谷おと

86頁、予価1000円となっております。

「水晶散歩」は話を現在に戻して、ポウ・ポーの物語の続きです。
『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』について書くのは小野塚力。
「超短編のセカイ」は安心の楽志節でたのしく読めます。
私の「ラヴクラフトにおけるダンセイニ受容」は「ウルタールの猫」を取り上げます。

よろしくお願いします。